6.



「それに……学年かまわず怪談の噂を調べて回っている二年生の男子がいる、という話は私も聞いておりましたし」


 針見はりみ先輩はにこにことして付言した。


「あ、知られてしまっていましたか」

「ええ、三年生の教室まで来ている暮樫くれがしさんのお姿を私も何度かお見かけしましたよ」

「ああー……それはなんだかお見苦しいところを……」


 僕はなんだかばつが悪くなってしまい、痒くもない頭を搔いた。



                  *



「なんだ或人あると、そんなことしてたのか」


 隣の布津ふつが問いかけた。


「うん、休み時間とかの合間を縫って、ちょっとね」

「なるほど……道理で昨日の昼休みとか教室にいないと思ったら……」

「あと、朝のホームルームが始まるまでの時間にも、出来るだけ」

「お前にしてはいつにない行動力だな」

「いやあ、ははっ。布津にそう言われると、少し照れ臭いな」

「言っとくが、褒めてないからな」


 布津の目は冷ややかであった。



                  *



「でもよ、或人」

「なんだい、布津」

「その、そうやってお前が〝学校の怪談〟について聞いたり調べたりして回っているのは妹の言う『勝手なこと』には入らないのか?」

「ああうん。それはさ、四月から言鳥ことりがめでたくこの高校に入学したからね。つまりは僕の行動範囲が妹の手の届く範囲と重なった訳じゃん」


 妹はいつも僕が彼女のいないところで怪異にかかわることを気にしていた。暮樫の実家と現在僕が通っている高校とはかなりの距離があった。この一年間、僕と妹の生活圏は物理的に隔たっていたのだった――それでも妹はお構いなしと言わんばかりに休日となるや僕の下宿先を頻繁に訪れていたが……。


「だから少なくとも今は、僕は『言鳥のいないところで』勝手なことはしていない、という論法さ」

「…………それは屁理屈と言うのではないか?」

「そう考えていたら、一昨日、始業日に登校した途端にこの騒ぎだろう? 早速、噂を知ってそうな人を探して聞いて回ったよね」

「お前は……」

「そういう意味だとさ、あの朝に布津から五筒井いづついさんの体験談を聞けたのは幸先さいさきよかったよ。いやあ、布津にはあらためてありがとうと言いたいね」

「本当に調子いいよな、お前」


 批判は甘んじて受け入れよう。

 それもこれも、妹を愛するが故の行動である。



                  *



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