木こりは笑う
「ヤヤ! これはこれは勇者殿!」
バニーはニコリと微笑んだ。
「申し訳ないのデスガ、本日はもう閉店してマス。また明日、いらっしゃってくだサイ」
ざわつく他の者とは違い、バニーはまっすぐに勇者を見つめていた。昼間とは違う気分の悪い笑顔だった。
「お礼を言い忘れてましてね」
勇者は笑顔を崩さずに辺りを見回した。バニーを含めて、五人いる。中年と初老、若い男に老婆。全員と闘うことになるのだろうか。
「彼が子供の頃、貴方がたの本業のお世話になりましてね。ぜひ、直接お礼がしたいと思いまして」
勇者が言うと、バニーの視線が一瞬ハヤブサに向けられた。しかし、笑顔のまま首を傾げる。
「存じませんネ。それより、ここは立入禁止デス。場合によっては警備を呼びマス」
「好きにしろよ。今日で人さらいは廃業だからな」
ハヤブサが睨み付ける。バニーは笑顔を消して呟いた。
「人聞きの悪い。ストーン。いつまで寝ている。早く起きろ。お客様だ」
その言葉が合図のように、ブラッドが吹っ飛ばした扉がさらに跳ねた。扉の下敷きになっていたようだ。体格の良い男が大きく伸びをした。
「スミマセン。寝てました。会議終わりですか?」
「お客様だ。お前好みのな」
バニーが言うと、ストーンと呼ばれた男は勇者らを見た。眠そうにしていた顔が徐々に笑顔に変わっていく。
「強えのがいるな。女、お前だな」
「ご指名? 照れるじゃない」
ブラッドは首を回して舌を出した。
「お前たちはこの場から離れろ。私とストーンで片付ける」
バニーは他の者たちに声を掛ける。
「逃がすわけねぇだろ」
ハヤブサとリリーが立ち塞がる。それを見たバニーは息を吐いた。
「なら、私達が動こう」
バニーが構えたので勇者は走り込み、彼女を押さえつけた。それを引き剥がそうとストーンが近づいたが、ブラッドがそれを制す。
「勇者殿。それは間違いだよ」
バニーがニヤリと微笑むと、彼女の足元に魔法陣が現れる。その範囲は近くにいたストーンとブラッドまで及んでいる。
「お前らはそのガキと男の相手をしておけ。いいな? ローレンス、場合によっては殺しても構わない」
バニーが言うと、魔法陣が激しく光り、勇者の視界は真っ白になった。
一瞬の出来事だった。勇者とブラッドは先程までいた部屋とは違う場所に飛ばされていた。ただ広く、何もない。倉庫のような場所だった。
「本日はご来店いただきましてありがとうございマス、勇者殿」
抑え込んでいたはずのバニーは勇者から離れた場所でストーンと並んでいた。
「どうやら、命を売りに来ていただいたようで?」
バニーは微笑んだ。
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