疾風の国
大きな森の中心にその国はある。自然との共存は人々の生活を様々な意味で豊かにした。訪れた旅人は、どこか懐かしくあたたかい自然に囲まれ、旅の疲れを癒していく。
命は平等であり、最期は全て土に還り森の一部となる。それは人も獣も植物も同じであり、優位に立つことはない。ある種、どの国よりも力が拮抗しているとも捉えられるだろう。
「疾風の国。ハヤブサの故郷なんだよな」
勇者たちは疾風の国の中心となっている町にやってきた。
港町ではさわられた子供や、モンスターについての騒ぎが起こっていたが、リザードらが先頭に立ち対応をしていた。リザードは勇者に「本拠地を叩いたら、また顔を出しに来て欲しい。ちゃんとお礼を言わせてくれ」と言って微笑んだ。
「まあ、ガキの頃しかいなかったけどな」
ハヤブサは言いながら、町の様子を見渡していた。
木造の建物が並んでおり、森に並んでいたようなかなりの大木にも巻き付くように小屋が建てられていた。梯子や木で作られた階段、重石を使い上がる仕掛けなど、木の上の暮らしが不便ではないことは見てわかった。
「技術が遅れてるとか、そういうわけじゃないんだな。むしろ、自然と共存するようにかなり発達してる」
「自然に囲まれると、心が落ち着きます」
リリーは深呼吸をした。ブラッドも伸びをして頷いている。ブラッドは一日休み、ほぼ全快した。ナイトはそれを見届けると「獣は違いますね」とだけ言って町を出た。
「ブラちゃん、木こりの家って店ってどこにあったかわかる?」
勇者が聞くとブラッドは考える仕草を見せた。
「雑貨屋でしょう? 大丈夫よ、嫌でも目につく場所にあるから」
ブラッドの言葉の意味はすぐに他の三人に伝わった。町を少し歩くと、一際目立つ大きな木が大通り右手に見えた。そこには「木こりの家」と書かれた看板が掲げられていた。店には多くの客が足を運んでいる。
「勇者見ろよ、すげー人だ。商売繁盛だな」
「たしか、あの木はこの国で認められて王から与えられたって言ってたわ」
「とりあえず、俺たちも行ってみよう」
店の前に立つと、その大きさを再確認させられる。周りにあるの店の五倍はあるように見える。立ち止まっていると、店の男が声を掛けてくる。
「やあ、お客さん。ウチにはなんでも揃ってる。軽い気持ちで入って見てください。きっと何か見つかりますよ」
ニコニコと明るく振る舞う男だった。この男は商いで顔を合わせたことはなかった。勇者は微笑み返した。
「冷やかしにならなければいいんですが。ちょっと覗かせてもらいます」
「ええもちろん。冷やかしだって大歓迎ですよ!」
男はさあさあと勇者たちを店へと招いた。
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