小さな日々

 勇者たちが町を歩いて感じたのは、確かに平和だった。独特な進化を遂げた港町は、安全を手に入れ、さらにその発展を加速させたようだ。

「魔王が倒されれば、みんなが笑って暮らせる世界がやってくる」

 突如世界に暗雲が立ち込めた時は、そういった言葉が飛び交っており、人々はそれを願っていた。

 この町はそれを一足先に形にしたような雰囲気だった。

「私が前に来た時は、荒々しい海の男たちの町って感じだったわ」

 ブラッドの言葉に勇者も同意した。海から空からモンスターがやってくる中で、船に求められるのは商品を守る力だった。勇者の父も、時期や航路によっては護衛を雇い荷物を運んでいた。

「あのさ、陸地のモンスターを皆殺しにしたのはわかるんだけどよ、海のモンスターはどうやったわけ」

 ハヤブサがブラッドにたずねた。

「やることは一緒よ。船に乗って、モンスターが襲ってこなくなるまでウロウロするの。ドラちゃんが魔力探知して私が釣り上げたりもしたわ」

 モンスターを狩ることを専門にする輩たちに絡まれることもあった、とブラッドは笑った。勇者には、無謀に絡んでしまった輩たちの安らかな眠りを祈ることしかできない。

「私たちが暴れ過ぎて、途中からは海賊船との殴り合いが主になってたから楽しかったわ」

「楽しいの基準が俺たちとは違う」

 勇者は苦笑いする。そして、少し考えていた。

 父は何故、平和になった海に連れて行ってくれなかったのだろうか。ここまで害がない航路になっているのなら、もっと手伝わせてくれてもよかったはずだ。それとも何か別の要因があったのだろうか。

「まるで旅が終わった後の光景だな、勇者」

「空見ろ空」

「ここの人たちにとっては小せえ日常かも知らないがよ、魔王によって世界が混乱と破滅に向かっていたあの時と比べると、明るすぎるくらいだぜ」

「……明るいところには影があると思います」

 ハヤブサの言葉にリリーが下を向いたまま呟いた。

「外に出ている方々は皆、幸せそうに笑っていますが、家に閉じこもってる方の悲しい気配があちらこちらから……感じます」

 リリーは目を閉じて深呼吸をした。恐らく、彼女は力によって、断片的に何かを見たのだろう。

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