第六章 疾風の国

澄み切った小川

 水鏡の国は水に囲まれている。中心には数多の湖があり、地下に溜まった水は川となって外へ流れていく。

 岩肌ばかりの山を下れば、見えてくるのは大きな海と賑わう港町。気を良くして歩を早める旅人たちは気を付けなければならない。

 山には追いやられた人ならざるものたちが息を潜めて獲物を待っているのだから。


「何か感じるか」

 勇者は大きな欠伸をしていた。洞窟を抜けると草のない岩山に出た。水鏡の国に向かう途中とは違い、川が流れているが小さな魚以外に何もいなかった。

「人の気配はないわ」

 ブラッドは肩をすくめた。

「魔力も感じられません」

 リリーは首を振る。

「魔力を探ればよかったのか……」

 勇者は呟いた。今まで目で見えるものと気配でしかモンスターを探さなかったが、相手は魔物。魔力で探せばよかったのだ。もっとも、探したところで見つかるとは思えないが。

「リリーは水の魔法が得意なんだな」

 勇者の言葉にリリーは頷いた。

「お姉ちゃんも私も、違う形で水に強いんです」

「リリーちゃんは強いのか?」

 何も知らないハヤブサが口を開く。ブラッドが可哀想なものを見るような目を見せた。

「強さで言えば、ブラちゃん、リリー、俺かお前の順番だよ。相性で考えればブラちゃんより強いかもしれない」

 勇者は息を吐いた。古参メンバーが成長を見せない悲しい一行だった。

「二人とも、少しは場数踏んでまともになったんじゃないかしら」

 ブラッドは言うが、勇者には気休めにもならなかった。

「結局は魔術王を倒せたのは二人の力と、戦神様の力添えだよ」

 勇者は力無く笑った。戦場をウロチョロすることしかできていない。ハヤブサのことをいよいよ馬鹿にできなくなってきた。

「戦うだけが全てじゃねえよ」

「魔王倒しに行くんだけど」

 凹むハヤブサを見て、勇者も気落ちした。そんな二人を見てブラッドが困ったような顔をする。

「じゃあ、この人さらい事件は二人に頑張ってもらうわ」

「相手は人だろ。ブラちゃんがパパッて倒して終わりだよ」

 勇者はブラッドを見ながら拳で宙を切った。ブラッドはやれやれとため息を吐いてリリーの手を引いて山を降りて行く。

「やる気はあるんだけどな、俺たち」

 勇者はハヤブサと頷き合いながらブラッドの後を追う。

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