試練4

「起きて!」

 勇者が大声に目を覚ますと、目の前にブラッドの顔があった。

「よかった」

 ブラッドは微笑んで勇者を起こした。周りを見るに、まだ洞窟の中にいるようだった。広間のような空間だが、水は流れてきてはいない。出入口は一つだけだった。

「勇者。この国を目指してから、私たち、距離縮まり過ぎじゃない?」

「どういうこと?」

「だってもう二回も人工呼吸しちゃったのよ。前の旅ではまともに女扱いされてなかったから、ちょっと照れ臭いわ」

 勇者は立ち上がって残りの水を吐き出した。

「当て付け!?」

「いや、別に。ブラちゃんみたいな美人にキスされてるなんて意識がない自分が憎らしいぜ、くっそー」

「吐き出させるの手伝ってあげる」

「すみません助かりましたありがとうござ……」

 勇者はブラッドの補助を受けながら水を吐き切る。ブラッドは「本当に傷ついたんだからね」と口を尖らせた。

「……ここは」

「洞窟内で高さのある場所らしいわ。外に戻るより、こっちの方が早かったの」

 勇者が見渡すと、リリーを抱き締めるフィーの姿が見えた。黒い影の正体はリリーの姉だったようだ。

「いきなり入口から水が噴き出してね。その瞬間、あの子が飛び込んで行ったから追いかけたわけ」

 ブラッドがフィーを示しながら言った。

「お姉ちゃん」

「絶対に私が助けるから。リリーは私が守ってみせる。お姉ちゃんだからね!」

 フィーは歯を見せて笑う。リリーもそれに答えるように微笑んだ。

「お姉ちゃんは魚っぽいのにリリーちゃんは泳ぎ回れないのか」

「そうなの。ま、アタシは魔法はからっきしなんだけどね。姉妹で上手い具合に能力が別れたって感じ」

 フィーは体の水を払いながら言った。勇者の背中をさすっていたブラッドが通路の入口を見つめた。

「敵は?」

「魔王の部下。先輩が仕留め損なったらしい」

 勇者は息を吐いた。危うく溺死するところだった。精霊の加護ではどうにもならないこともあるようだ。

「来ます!」

 リリーが立ち上がり、杖を構えた。

 激しい音ともにこの広間の入口が壊れた。そして、目の前に魔術王が現れる。

「人数が増えたな。だが、無駄だ。まさにこれは袋の鼠というやつだな」

 魔術王は余裕の笑みを浮かべていた。一人二人増えたところで関係はないと高を括っているらしい。しかし、勇者からしてみればこの増援は戦局を大きく変えることができる。

「ブラちゃん、朗報がある。……あいつ、殴れるぞ」

「それは最高」

 ブラッドは悪魔のような笑みを浮かべて構えた。

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