試練3

「だが、今回は時間をかける必要もあるまい」

 魔術王は両手を広げた。

「勇者様、逃げてください!」

 リリーが叫ぶと同時に、魔術王は広げた手を合わせた。光とともに大量の水が現れる。

「趣味が悪い!」

 勇者は体勢をを整える。水はすぐに洞窟内を七割ほど満たしてしまった。勇者は増える水の中でバランスを取ることに必死だった。こんな洞窟で水責めとは性格が捻れているどころではない。

「洞窟だぞ、穴だらけだったのにこんなに水溜るのかよ」

 勇者様は水に潜って魔術王を探した。見ると、先ほどの位置から動かずに魔法で作られた空気の塊の中でこちらを見て笑っていた。勇者はその手があったかと、リリーのところへ泳いでいく。リリーならば、同じことができるはずだ。

「おーい、リ」

 水面から顔を出して呼びかけようとした瞬間、身体中に衝撃が走った。まるで雷に打たれたようだった。いや、実際に打たれたのだ。どうやら、魔術王が電撃を放ったらしい。勇者もリリーも水の中に沈んでいく。


 魔術王は一人高笑いすると、リリーに手をかざして引き寄せた。

「魔力の高いこの女は良い触媒になるだろう。魔王様への手土産になる。そして、土産ついでに二人目の勇者の首でも持って行くか」

 勇者は胃の中に流れ込んでくる水に苦しみながら、その様子を眺めていた。最悪だ。何もできないどころか、リリーを連れていかれてしまう。しかし、どうすることもできない。勇者は前勇者を恨んだ。どうせ殺すならちゃんと殺しきってくれ。とんだとばっちりだ。

 魔術王に引き寄せられていたリリーを、突然現れた黒い影が攫っていく。勇者はそれを目で追いかける。黒い影は洞窟のさらなる奥へ消えていった。一体今のはなんだ。

 すると、勇者の体を誰かが掴んだ。抱えるように泳ぎ、黒い影を追いかけていく。そこまで確認して勇者は意識を失った。




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