隻眼の見習い

「リリーはね、勇者が来るまでの間、魔王の手下に襲われた他の見習いたちを守る為に戦ったのよ、その目はその時に……」

 フィーは言う。

「き、気持ち悪いですよね、すみません」

 リリーは目を逸らして俯いた。ブラッドが優しく微笑みながら近寄った。

「お姉さんもほら、こんなにやられちゃったの」

 彼女が傷を見せ笑いかけると、リリーは黙って頷いた。

「客室があるから、休んでいって。見返りはいらないよ。何かご飯作ってくる!」

 フィーはそう言うと部屋の奥へ消えていった。リリーは気まずそうに椅子に腰掛け、俯いていた。勇者は黙ってそれを眺める。うるさい姉の真逆であれば話が通じると思って紹介を受けたが、想像よりもしっかりしていて安心した。

「いいのか、姉ちゃんに勝手に決められたみたいになってるけどさ」

 ハヤブサが申し訳なさそうに声をかけた。リリーは首を振る。そして、小さな声で言葉を紡いだ。

「女王様からお話があったんです。勇者様が再び現れる。本来であれば決められた時期にのみ行う試練ですが、勇者様を導くという理由であれば……認めてくださると」

 リリーは右目を隠すように手を添えた。

「正直、まだ怖いです……」

「ブラちゃん、面識はないの?」

 勇者が聞くと、ブラッドは首を振る。

「私、ここでは全く役に立たないから、迂回して先に次の目的地まで行ってたの」

 ブラッドの言葉に勇者は頷いた。ここに来たことがあるにしてはどこか他人事だったのは別行動を取っていたからのようだ。

「今回は一緒に来てね」

「んんー……」

 ブラッドはあからさまに目を逸らした。

「なあ、試練の洞窟って狭いか?」

 ハハヤブサは不安そうに声を出した。勇者もその質問には興味があった。答え次第ではハヤブサの命運が決まってしまう。

「洞窟と言っても入り口を抜ければあとは広々としていますよ」

「四人揃って行けそうだ」

「まだ実物を見ないことには……」

 ハヤブサはわかりやすく目を背けた。ブラッドが同類ねと微笑み、勇者は溜息を吐いた。

「皆さんとなら、大丈夫だと思います」

 横目で三人のやり取りを眺めていたリリーは下を向いて呟いた。

「私には、皆さんがどんな人たちか、なんとなくわかるんです」

「さすが魔法使いだ」

 勇者が笑うと、リリーは小さくはにかんだ。

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