水鏡の女王
半魚人は湖を移動しながら巨大な水晶で作られているような建物に勇者たちを案内した。透明だがオーロラのような光が渦巻いており、中は見通せない。
「女王は全てを見通す力を持っているお方。きっと、あなたたちが来ることもわかっているでしょう」
半魚人は陸に上がる。人魚のような下半身だったが、すぐに人の足に形を変えた。
「すごいな、水陸両用か」
「へへへ、アタシは血筋が良いのさ」
半魚人は嬉しそうに言うと、建物の中に入っていった。
「ブラちゃん、ここの王はどんな人?」
勇者がきくと、ブラッドは頭を掻いた。
「不思議な人って言えばいいのかしら、とても強い魔力を持った女王らしいわ。未来が見えたり、遠くの様子を見たり……精霊と協力関係を結べているのも女王の一族のおかげと聞いたわ」
「苦手なのか、ブラちゃん」
魔力が皆無のブラッドは相性が悪いようだ。
「そうね。あと、あの人女に興味がないから」
「こっちこっち! やっぱりもうあなたたちが来ることをわかっていたようね! すぐに会ってくれるみたい!」
半魚人が大きな声を出して手招きをした。
「よく来てくれました。二人目の勇者よ」
女王の謁見の間に着くなり、すぐに声をかけられた。見ると、透明のベールを纏った女王が口角を上げて近寄って来る。
「いけません女王! 外からの得体の知れぬ連中に簡単に近づくなど!」
側近と思われる女が声を荒げた。
「黙りなさい」
女王は側近を一瞥すると、勇者の手を取り微笑んだ。
「やはり戦いが少ないと手のひらも柔らかいのですね。これはこれで素敵だわ」
女王は勇者の手を撫で回している。
「戦いが少ないと、わかっているのですね。さすが、水鏡の女王です」
勇者が言うと女王は上機嫌に頷いた。
「ええ。ええ。わかっております。先の勇者が虐殺を繰り返し、更地と化した旅路だったのでしょう。こうして肌に触れるとよりわかります。あなたは冷静で周りと一線を引いて物事を考えていますね、ですが正義感はお強い。勇者像からは少し離れているかも知れませんが、素敵だと思います」
女王は嬉しそうに勇者の手を撫で回し続けていた。やっていることは訳がわからないが、言っていることは一理あったので黙って聞いていた。
「前の勇者はこうして手をお取りしたら、すぐに拒絶されてしまいましたので……ここまでしっかりと見させていただくことは出来ませんでした。嫌ではありませんか?」
「女王様に触れられて嫌だと思う輩はいませんよ。むしろ、恐れ多くて拒絶してしまうものもいるのでは」
「まあ」
女王は頬を赤らめた。
「勇者って外面良いわよね」
「さすが商人上がりの勇者だよな」
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