遥か彼方から

 勇者は強い力に弾き飛ばされ、建物の壁にぶつかった。先ほどまで自分がいた場所を見ると、そこにはポッカリと大きな穴が開いていた。かなりの熱を帯びた光だったのか、穴からは白い煙が上がっている。

「無事か!」

 勇者が声を上げる。三人はそれぞれ違う方向に吹き飛ばされたが、大きな怪我はないようだ。あれだけの衝撃で軽傷というのは不思議だった。

「サイクロプスが!」

 ブラッドが穴に走り寄った。勇者は状況を察して駆け寄った。

 穴の中には大きな体から煙を出すサイクロプスが倒れていた。彼は、体を盾に三人を守ってくれたのだった。

「大丈夫か!」

 勇者が声を掛けると、サイクロプスは弱々しく立ち上がろうとする。しかし、腕や脚に力が入らないのか途中で地に伏せてしまう。そして、そのまま動くことはなかった。

「魔法の攻撃だわ……私は反応しきれなかった……」

 ブラッドが悔しそうに言った。

「嘘だろ……」

 穴へと歩み寄ったハヤブサが、サイクロプスを見て崩れ落ちた。

「魔王か?」

 勇者がたずねるが、ブラッドは黙ったままだった。次第に多くの人々が穴に集まり始める。

「許せないな……」

 勇者は拳を握った。ブラッドはサイクロプスを撫でた。

「私のせいだわ。きっと私を狙ったのよ……」

「どういうことだ?」

「そんなはずないだろ!」

 突然ハヤブサが声を荒げた。地面を拳で叩き、何度も強く首を振っている。勇者には二人の反応の意味がわからなかった。

「また仲間外れか?」

 勇者が言うと、ブラッドが重そうに口を開いた。

「私を拘束したってことは、出てこられては困るわけじゃない? なら、出てきたらわかるように何か魔法をかけていてもおかしくないわ」

 ブラッドはちらとハヤブサを見て目を伏せた。

「今の攻撃は、ドラゴンの魔法だ」

 ハヤブサは苦しそうに言葉を吐き出した。

「ドラゴンって、ハヤブサの村の?」

「俺はずっと、あいつのお守りをしながら、魔法の練習相手になってたんだ、魔力でわかる。今の攻撃は間違いなくドラゴンだ」

 勇者はようやく現状を理解する。遥か彼方から残忍な挨拶をしてきたのは、勇者の仲間だったのだ。拘束が解かれたブラッドを察知し、抹殺すべく魔法攻撃を仕掛けてきたのだろう。

「どうして、こんな……仲間を攻撃するような真似を……」

 ハヤブサは信じられないと言った顔で呟いた。

「つまり、前の勇者たちはこちらに対して明らかな敵意を持ってるわけなんだな」

「こちらというよりは、私ね。解放された私の息の根を止めに来てる。けど、一発しか撃ってこないってことは様子を見ているのかもね」

「どうして……ドラゴン……」

 町の人々が集まり、サイクロプスは運ばれ、勇者たちは宿屋へと向かった。闘技場の者によれば、明日のショーは続行し、サイクロプスの弔いも盛大に行うという。

 ブラッドは自分が狙われるかもしれないと言い、人気のない場所へ姿を消した。

 宿屋に入り、勇者とハヤブサは言葉を交わすことなく眠りについた。

 勇者にとっては先代からの残忍な攻撃でしかないが、二人にとってはかつての仲間の敵意を目の当たりにしたことになる。掛ける言葉も見つからず、静かに朝が来るのを待った。



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