踊り子
「やあどうも!」
次の来客は、町の入口で会った気の良い大道芸の団体だった。数人で顔を出しに来たという。先ほどの戦いを見てくれていたようで、興奮気味に勇者に握手を求めた。
「明日、この闘技場で催し事をさせてもらうんですよ。それで、ちょうど盛り上がってるということで観させてもらいました! いやぁ、とても楽しかったです!」
先ほども声をかけてくれた男は鼻息荒く握った手をぶんぶんと振った。
「疎いもので申し訳ないんですが、かなり有名な団体さんなんですか?」
勇者は申し訳ないように頭を掻いた。あの大所帯で、闘技場で催し事を行えるというのならば、名のある団体に違いない。
「大地の国で一番のサーカス団です! 各地で集めた超一流の芸人で最高の時間をプレゼントしますよ!」
男は大袈裟に手を広げたが、嫌味のない笑顔だった。
「久しぶりね」
男の隣にいた綺麗な女性が声をかけてきた。さすが超一流、かなりの美人だった。そしてのその顔には見覚えがあった。
「あっ」
村の少女の母だった。踊り子をしていたと聞いていたが、もう辞めたとも聞いていた。だがたしかに、勇者が村にいた時には姿を見ていない。
「今は若い子の指導をしているの。うちの村から新しい勇者が出たって言うから観に行ったらあなたなんだもの。びっくりしちゃった」
少女の母は微笑んだ。少女をそのまま大人にしたような、とても綺麗な笑顔だ。
「娘さんから、ネックレスを貰いました」
「そう。きっと役に立つ時が来るわ。それにしても、あなたが勇者だなんて。うちの子心配してたでしょう」
勇者は苦笑いする。たしかに傷つく程、心配はされた。だからこそ、引くことはできない。
「無事に帰って、驚かせてみせます」
「応援してるわ」
「是非、ショーを観ていってください!」
男は屈託のない笑顔で言った。勇者は頷く。男たちは何度も頭を下げながら部屋を出ていった。
「恋人でも残してきたの?」
ブラッドがからかうように勇者を肘で突いた。
「ただの幼馴染だよ。それにあいつは、前の勇者の信者だから……」
「ライバルもいるわけね。なら、なおさら魔王を倒さないとね」
ブラッドの言葉に勇者は何も返さなかった。
目的も理由も一つずつしかない。魔王を倒す。国王の命令。それ以上を考えても仕方がない。他にあるのは小さな意地だけだった。
「ねぇ、ピィちゃんに会いに行きましょう」
ブラッドは勇者の手を引いて部屋を出た。
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