砂嵐に阻まれて

 大地の国の面影が完全に消え去ると、そこにどこまでも続いているような砂漠が現れる。旅人たちは砂嵐の歓迎を受けながら、砂塵の国へと足を踏み入れていく。


「いだ、いてぇ、いった痛!」

 飛び交う砂や小石の混ざった風にハヤブサは悶絶していた。砂塵の国が近付き、砂嵐吹き荒れる砂漠を三人は歩いていた。モンスターは見当たらない。

「大丈夫か?」

 声をかけた勇者は、町で買った砂嵐対策の装備に身を包んでいた。ハヤブサは納得いかないと声を上げる。

「なんで? なんで一人だけそんなローブまとってるの? 俺がいるって知ってたよな? わかってたよな? いっ痛!」

 ハヤブサは目をパチパチさせながら吠えた。

「だらしないのね、ピィちゃん」

 軽装のままのブラッドは鼻で笑っている。

「え? 俺が悪いの? それはちげぇだろう」

「あのさ。お前も旅人だろ? 自分の装備くらい自分で揃えてくれよ。勇者が全員分の装備を買い与えて配るの? 俺の金で? 意味わからないんだけど」

 勇者が指摘すると、ハヤブサは黙ってしまう。社会に出るということは、自分一人で生きていくということだ。

「今更言われてもよ……」

 悪態をついていたハヤブサは打って変わって子犬のような顔で不貞腐れ始めた。

「わかったわかった。ハヤブサ、ほら」

 勇者は小さく舌打ちすると、魔法陣から装備を取り出した。

「これは?」

「雨用」

「は?」

「雨用だよ。無いよりマシだろ」

 勇者が差し出した雨合羽を、ハヤブサは手で弾いた。勇者は頭にきたので魔法陣に戻す。自分の世話もできない男に優しさをはねのけられてしまうとは。ハヤブサとの距離を痛感してしまった。

「行きましょう」

「そうだな。モンスターもいないし、さっさと行こう」

 勇者とブラッドは早足で先に進んだ。ハヤブサは「痛い」と連呼しながら必死でついて来る。そんなハヤブサが途中で漏らした「雨用でいいから」という言葉は砂嵐にさらわれ、勇者の耳に届くことはなかった。

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