第206話「土俵入り」
僕が小学3年生の時だ。
夏だか秋に、通っていた学童で発表会があった。なんでも、区内の全学童保育所が集まりイベントをするのだ。僕の学童でも出し物が決まり、なぜか「土俵入り」をする事になった!
当時、塾がブームになっていて学童に来る子どもが減った。学童には、3年生ではなんと、僕とウエの2人しかいなかった。ウエの方が体格が良いのだが身長差で、僕が四股を踏む人となり。ウエと2年生の男の子が、弓だか刀を持つお供になった。
そして近所から、相撲好きのオジサンが呼ばれ、僕は「雲竜型」だったかを習う事になった。
「もっとしゃがんで、両腕を大きく開いて!はい、パンッ!」
と、型を習っていった。
腰を落とす姿勢が辛くて、足がプルプルした。四股を踏むのはさらに難しかった。
「上げた手を下に返して、しっかり伸びて!はい足上げて!あ~ダメダメ四股踏むの早い!もっとゆっくり」
などなどオジサンから注文が相次いだ。僕は、あまりにも詰まらないので……次の日から学童を休んだ。すると、学童の先生がじきじきにクラスに来てお願いされてしまった。そして次に学童に行った時には、本物の化粧まわしが用意されていた!
さらには体育館を借りて、最後の土俵入りの練習になった。頭にはチョンマゲのカツラだ!刀は、これまた凄い模造刀だった。お陰で、なんとなくテンションが上がった。
「ヨイショ~!」
と、オジサンがかけ声をかける。心なしか丁寧で優しかった。そんなこんなで、全学童集まった発表会当日になった。
「次が順番だから」
と、オジサンに連れられ舞台袖に行く。化粧まわしを締め、カツラをかぶった。
「よし行こう!」
僕ら3人は舞台の階段を登った。
タンタンタタン、タタンタンタン
と、小太鼓が鳴る。
パチパチパチパチ
見ている人から拍手が鳴った。
しっかりとしゃがんで、両腕を挙げ打ち鳴らす!
手を天高く伸ばし、四股を大きくゆっくりと踏んだ。
その瞬間……
「ヨイショー!」
と、会場中から声が上がった。
そうそう、難しかった深く沈んでの、にじり寄らせる足運びもこの時に上手く行った。土俵入りが終わると……
大きな拍手と歓声が上がった。
『ちょっといいかも~!』
と、思った。
出し物が終わった後は自由時間だ。各アトラクションを回って遊んだ。そんな中……
「ヨイショ~!」
と、四股を踏む数人の低学年がいた。
「えっと、手はこうだよなあ?」
会場の隅のほうで、他校の子ども達が四股踏んでいたのだ。それを見て、僕はちょっと嬉しくなったのだった。
おしまい
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