第190話「雲梯(うんてい)」
小学校の校庭の片隅には、梯子(はしご)を横にした運動遊具があった。名前を「雲梯(うんてい)」と言った。
休み時間になると、特に小学校上がりたての時など、みんなが殺到して列をなすほどだった!横になってる梯子の段をつかみ、左右交互に手を伸ばして前に進んだ。
初めは一段づつだったのが、慣れるにしたがい間の一段を抜かして進む、「一段抜かし」が出来るようになった。
間の二段を抜かす、「二段抜かし」もあるが、一年生の時は、手足の長いホリだけが出来た。(ちなみに、カミはデブちんだったので、ぶら下がったまま動けなかった。そして「誰か、押してくれ~!」と叫んでいたのを覚えている)
なんども雲梯をやっていると、手の平にマメが出来た!そのうちに水ぶくれになった。水ぶくれのまま、やっていると、皮がズルむけてしまい、痛くてしばらく雲梯が出来なくなった。そのうち、ホリが水ぶくれの時の処置を教えてくれた。
「水マメ(水ぶくれ)になったら、穴を開けるんだよ。そしたら、中から水が出せるだろ」
と、言って名札の安全ピンで、自分の手の平の水ぶくれに刺して見せてくれた。
「水マメの右か、左に刺すんだぜ!じゃないと、穴から裂けてむけちゃうからな」
とも、教えてくれた。確かに、手の平がこすれるから理にかなっていた。それを親父に言ったら……
「まだまだだなあ、ミズキく~ん!焼くんですよ!」
と、言った。なに~?焼く~!?
「ちょっと貸して見な!」
と、言うと僕の名札の安全ピンを外すと、ライターであぶっていた。
「こうやってからじゃないと、バイ菌が入るんだよ!火で消毒するんだよ」
と、言って僕にライターを手渡した。僕も真似してライターであぶってみた。
「あっ、言っておくけど、あぶりすぎると、熱が伝わって持てなくなるぞ!」
と、言われた時には……
「アチッ!」
と、言っていた。早く言えよなあ。
「じゃあ、明日からライター持っていくよ」
と、言うと、いつの間に聞いていたのか、婆ちゃんが凄い形相で……
「馬鹿言ってんじゃないよ、ミズキ!そんなもん学校に持ってたら大変だよ。お前も(親父)余計な事、教えるな!」
と、大目玉を食らったのだった。
二年生になり、「二段抜かし」が出来るようになった時は、嬉しくてたまらなかった。自分が大きくなったのを感じた。その頃カミも、なんとか一段抜かしで進めるようになった。
雲梯では、「戦争」という遊びもした。2組みに別れて、端から雲梯を進み、ぶつかった所で相手を足で挟んだりして落とすのだった。落とされた時点で、次の奴が出ていって勝負をした。(ドーン、ジャンケンポン!みたいなルールだ。知ってる?)
これが結構、というか凄~く危なくて……負けそうになったら、すぐに手を離せばいいのだが、下手に頑張ってバランス悪く落ちると、マジで怪我をした。擦り傷、切り傷当たり前で、終いには何人かが、頭を打って病院行きになり……じきに禁止となってしまった。
雲梯の上を歩くのもやったなあ。ホリが歩き出してから、みんなやり始めたが、これはかなり度胸がいった!高学年なら屁でもないが、低学年の時だったので、手に汗握って一歩一歩、歩いたのを覚えている。ホリは、雲梯の上を走っていたが、3年生になるまでは僕には出来なかった。(もちろんカミは、上にすら上がれなかった)
放課後、校内学童保育所に通っていた時には、誰も雲梯にいない時が多々あった。だから僕は、雲梯の上に寝そべって、ゆっくりと流れて行く、雲を見るのが大好きだった。
今にして思うと、雲まで届きそうな梯子!という事だから、「雲梯」だったのかなあ?
おしまい
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