第176話「段ボールで滑ろう!」

僕の小学時代の話だ。

2年生の時だったか、学年全員で森林公園に遠足に行った。その行った先の森林公園に芝生の丘があり、誰だかが見つけて来たのか?はたまた先生が持って来ていたのか?段ボールで斜面滑りを楽しんだのだった。


僕の街は、コンクリートのビルが沢山あり、公園などあったが斜面滑りが出来るほどの場所はなかった。遠足から帰り、また普段の小学生活に戻ると、あの段ボール滑りがしたくてたまらなくなった。そんなある日……


「ミズキ!学校の裏に段ボール見つけたぜ」


と、友達のカミが嬉しそうに段ボールを抱えてやって来た。僕らはすぐにナイフを出して切り開いた。

(そうそう余談になるが、今ナイフを携帯した小学生がいたら大変な事になるかと思う。当時の僕らは鉛筆をナイフで削るのが当たり前だった。ナイフには、肥後守(ひごのかみ)やボンナイフ、または切り出し小刀などを使っていて、筆箱やそれこそ、ポケットにいつも入れて持ち歩いていたのだ)


僕はカミから切り開いた段ボールの半分をもらった。カミも、僕と同じ事を考えていたのが分かった。目指すは階段だ!


「うおーっ!」


僕らは、階段の一番上から段ボールで滑り降りた。さて僕も滑ったが……


「いてっいてて、痛いよ、お尻がっ!」


芝生の斜面に比べると、デコボコ激しい階段ではお尻が痛かった。そのうち……


「おい、ミズキ!体を倒せば、痛くないぜ」


と、カミが攻略法を教えてくれた。今にして思えば、こうやって自然と、体で摩擦抵抗の原理などを学んでいるのだ。そのうちイケとノグがやって来た。


「段ボールどこにあった!?」


「学校の裏、焼却炉の脇だよ」


カミが教えると、すぐにイケ達は取りに向かった。その休み時間はそれで終わってしまった。そして次の休み時間。2時間目と3時間目は通常の休み時間と違い、中休みと言って20分あった。段ボール滑りは、瞬く間に流行った。階段では段ボールで滑り降りる奴らでいっぱいになった。2年の教室は2階で、下の1年生の廊下へ滑っていくので、そのうち1年生もやり始めた。


そして3時間目。授業のチャイムが鳴るが、なかなか先生は来なかった。10分程して……


「こら~!あなた達が始めたのね」


女先生がエラい剣幕で教室に戻って来た。職員室で先生同士が自分のクラスの生徒に聞いて来た事を合わせていたのだ。最後にカミが焼却炉脇から段ボールを持って来た事がバレてしまった。


「とにかく、階段での段ボール滑りは危険なので禁止します!絶対にやらないように」


とまあ、いつもの事だが全校生徒に禁止令が敷かれたのだった。


そうそう、この話しにはオマケがあった。先生にこっぴどく絞られた僕達はその後、校長先生に謝りに行った。


「お騒がせしてごめんなさい」


と、先生に習った謝罪の言葉を校長先生に言った。校長先生は真剣な表情で……


「本当に、誰にも怪我がなくて良かったです。もうしないように」


と、言った。僕らは本当にマズい事をしたと思った。そして、校長先生は僕らを手招きして近寄らせると……


「でも…… 滑るのは面白いよなあ。本当はみんなにもっとやらせてあげたいよ。でも、階段は本当にダメなんだよ。分かってね。」


と、言って一人一人の頭をなでたのだった。


おしまい


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る