第153話「虫の音は聞こえない」

 今、住んでいる所は都心から30分位の所で、畑がアチコチにある場所だ。だから、夜になると……


リリリーン


ジージージー


 と、虫の音が聞こえ、耳を楽しませてくれる。そういえば、息子が2歳の時は、特に、ジージーと鳴くオケラの声を気に入っていて……


「ジージーっていったね!ジージーっていったね!」


 と、鳴いている方角を指差していたのを覚えている。


そんな虫の音に喜ぶ息子の姿を思い出していたら、そういや小学時代の記憶の中に、虫の音がない事に気がついた。なんでなんだあ~!?


 僕が小学生の時は、都心に住んでいた。当時は、アチコチで開発をしていて、空き地も多く良く遊んだ。夏場、夕暮れ時になるとコオロギの鳴く声が……


『あれっ!?』


 思い出していて、気が付いた。虫の音が聞こえなかった!!しかし、これはどうした事なのだろうか?僕の記憶違いかな?


 僕の実家は都心の住宅が密集していた地域だ。所狭しと、アスファルトとコンクリートで固められ、虫の住む場など確かに無かった。(でも、空き地で、虫の音を聞かなかったのは、なぜだろう?)


 そういえば、婆ちゃんに、コウロギだったかスズムシを、市場でねだった事があった。300円だったかで買った、つがいの虫。しかし、夜中に鳴いてうるさくて、結局、近くの空き地に逃がしたのだった。


 ちょっと余談になるが、職場の年配の連中と話している時の事だ。


「えっ!ミズキさんは、お金出して虫を買ったんですか!?」


 と、言われビックリした。


「じゃあ、どうするの?」


 と、聞くと……


「空き地や裏山で採ってくるんですよ。全く、ミズキさんは、都会っ子だなあ」


 と、言われた。多分、僕らの世代から、虫はお店で買うのが普通になったのだと思う。


そうそう小学時代に親父に、この話しをした事があった。


「いや、昔はこの辺りだって虫は採れたよ。雑木林もあってカブトやクワガタもいたし、うちのすぐそこには、昔は川があって、メダカやタガメも採れたんだよ」


 と、言っていた。昭和30年代の話だ。


「じゃあ、僕らの時代に虫がいなかったのは?」


「ああ多分、風土病予防のせいだろうなあ」


 と、親父は言った。昭和50年代。アチコチで開発が進むに伴って、土が綺麗に処理にされていったそうだ。僕が知ってる風土病の名前は、確か「破傷風」だったかな?良く昔は「古クギに触るな!」と言われたものだ。傷口から菌が入るからだ。

 

そういえば、しょっちゅう葉っぱとかに防腐剤が撒かれていた気がする。砂場の砂は、業者が来て加熱処理していたなあ。土は、東京湾の埋め立てに使われたのだろうか?

 

当時は、虫が生きにくい時代だったのだろう。そんな地元だが、最近は虫の音がするのだ!久しぶりに実家に戻った時だ。ちょっとした公園や空き地で……


コロコロコロ


 と、鳴いていた。


「最近は、虫の音を聞くようになったよ」


 と、親父は言っていた。きっと昔ほど、薬を撒かなくなくなったから、虫も戻って来たのだろうと、僕と親父は思っている。


おしまい


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る