第122話「爺ちゃんの戦争前後」
僕の小学時代の話だ。
夏も8月すぎ初秋になる頃、毎年の事だが8月15日に向けて、終戦特集や特別番組が多くなるのだった。すると、爺ちゃんの話す話題も、戦争の話しやその前後の話しが多くなった。
「ミズキ君、“寒中に蚊帳を吊る!”って、なんだか分かるかな?」
まるで、名探偵シャーロックホームズが、助手のワトソン君に聞くかのように、爺ちゃんは僕に聞いてきた。
「寒中?蚊帳は分かるけど……」
と、僕が首をかしげると、爺ちゃんは、話しを続けた。
「その昔、爺ちゃんが戦争から帰って来た時の事。婆ちゃんと堀っ建て小屋に住んでいたんだよ。お金が無くてなあ、その家にはなあ、“屋根”がなかったんだよ……」
「……屋根が無いの!?壁だけ??」
と、僕が答えると、それを聞いていた婆ちゃんが……
「そうなんだよ。お爺ちゃんが、柱立てて筋かいを入れて、土塗って壁を作ったんだよ」
と、説明してくれた。
「寒い夜でなあ。寝ていたら、なんか顔に冷たいのがくっついてくるもんで、空を見上げて見たら、雪が降ってきてたんだよ」
と、爺ちゃんは手でぬぐう仕草をした。
「えっ、それで!?」
「顔にくっついて困るんで、フウ~!フウ~!と吹いていたんだけど、どんどん降って来て、布団にも積もって来たんだよ。」
と、爺ちゃんは言うと、お茶をすすった。
「さあて、困った事なったなあ~と、考えていたら。ひらめいたんだよ。」
「で、どうしたの?」
「夏に、蚊除けに使う、蚊帳を吊ったんだよ!」
脇で、婆ちゃんが……
「あの時は、冷たかったけど、爺ちゃんが蚊帳を吊ってくれたから、良かったよ。朝には少し積もっていたから」
と、つぶやいた。
当時は、電気が復旧出来てなくて、もちろん街灯もなかっただろうに、なぜ雪が降っていたのがわかったのか?きっと、薄雲からの月明りや、ランプをつけたのだと思う。
その時代、爺ちゃんの家だけが屋根なかった訳ではなく、まわりはバラックだらけだったそうだ。だから、爺ちゃんは次の日、近所の人に裏技を教えていたに違いない!と僕は思っている。
その後、お金をためてトタンを買い、爺ちゃんは「屋根」を作ったと言っていた。
つづく
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