第120話「婆ちゃんとミシン」

僕の小学時代の話しだ。

我が家には、足踏みミシンがあった。

「これ、どうやって使うの?」

「こうやるんだよ」

と、婆ちゃんに言うと、やって見せてくれた。そして、マネをしてみるのだが、なかなか上手く足踏み出来ず、逆回転してしまったのだった。

足踏みミシン。それは婆ちゃんが大昔、内職に使っていたものだった。僕が小学生の時にも、内職をやっていたかは定かでないが、僕の浴衣や甚平(じんべえ)や、ちょっとした襟付きのシャツなど作ってもらった記憶がある。


そうそう、婆ちゃんの実家の一族は和裁や洋裁をやっていた。内職だか、本職だか忘れてしまったが、たまに婆ちゃんの実家に遊びにいくと、婆ちゃんの妹の部屋は工房になっていたのだ。

(そうそう思い出した。婆ちゃんの兄は電気屋さんで、妹も家に住んでいて、妹は服飾の仕事をしていたのだ)


僕が小学4年になると、古くなった家を建て替えた。その頃、我が家に電動ミシンが現れた。でも、足踏みミシンは家に残され、荷物を置く台になっていた。


そういえば、婆ちゃんが電動ミシンをやり始めた時に言ってたなあ。


「電気は思うように縫えないねえ~、やっぱり足踏みの方が早いよ」


って。

婆ちゃんが電動ミシンに慣れるに従い、我が家の足踏みミシンは使われなくなり、とうとう取って代わってしまったのだった。

おしまい




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