第107話「暑い日」
毎日、暑い日差しの中、通勤をしている。ホームで電車を待っていると、ホーム自体が熱くて、まるで自分がフライパンの上にいるお肉になったような気がしてくる。
『こうも暑くちゃ線路もやばいよなあ』
と、思っていたら思い出した。
僕の小学時代の話だ。
◇◇◇
朝からの快晴に、アスファルトも溶けそうなくらいな暑い日。
爺ちゃんは、居間のクーラーで涼みながら、国鉄の保線員(レールをメンテする仕事)の仕事をしていた時の話をし始めた。
「ミズキ君。レールの端と端は、つながって無いの知ってる?」
と、爺ちゃんは僕に聞いた。
「???」
「だから、電車に乗ってると、つなぎ目が空いてるから、ガタン、ガタンて鳴るんだけど……レールの端と端をくっつけちゃうと、大変な事になっちゃうんだよ!レールは、金属で出来ているんだけど。暑くなると金属も熱くなって、段々と、延びちゃうんだよ。だから、はじめから、少し隙間をレールとレールの間に作っておくのさ。だけど、今日みたいに暑い日は、それだけじゃ足りなくなる事があるんだよ。爺ちゃんが保線係の時は、レールの間が詰まっちゃってきたら、水まきをしたよ!」
と、爺ちゃんは言うと、ズズズとお茶をすすった。
「へえ~」
と、僕は答えた。
「ミズキ君は、逃げ水を知ってるかな?」
「逃げ水?」
「こういう暑い日は、地面も熱くなって、空気がグニャグニャと揺れて、遠くに水があるように見えるんだよ。追いかけても、追いつけず、逃げていくから、逃げ水っていうんだよ」
と、爺ちゃんは言った。
「蜃気楼みたいなもの?」
と、僕が聞くと。
「そうだ、同じだ!」
と、爺ちゃんは答えた。
僕は、逃げ水が見たくて外に出た。外は、これでもか!ってくらいに、太陽がギラギラしていた。広くて大きな幹線道に行くと、爺ちゃんの言っていた、逃げ水が見えた。アスファルトのそこだけが、誰かが水をまいたみたいになっていた。
焦げそうな日差し。午後も一段と熱く照っている。婆ちゃんがお風呂の水を汲み玄関に向かった。植木に水をやるのかと思い、手伝おうと僕も玄関に出て、ジョウロを持つと、婆ちゃんはこう言った。
「こんな、暑いときに、植木に水やったら、死んじゃうよ!!水をまくのは、家の前だよ。」
と、言って婆ちゃんは手桶で、家の前に水をまいた。
「打ち水って言ってね、水をまくと涼しくなるんだよ」
と、婆ちゃんは教えてくれた。
「クーラーにあたってばっかりじゃあ、体に毒だよ!」
と、婆ちゃんは窓を開け、玄関を開けだした。
居間には、玄関からの涼しい空気が入りこんで来た。
「これで十分だよ!」
と、婆ちゃんは言うと、扇風機のスイッチを入れた。
カラカラカラカラ
と、扇風機の回る音が、居間に響いたのだった。
余談。
当時の気温は、暑くても29度といった所だった。そして普段は25~6度だったから、扇風機で本当に十分だったのを覚えている。
おしまい
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