第48話「梅雨」
梅雨の時期。毎日、毎日、途切れる事なく雨が降る。子どもの頃、いつも思っていた事がある。
『この水は、いったいどこから来るんだろう?』
そう一瞬、思いついては、いつも消えてしまった思い。一度だけ、爺ちゃんに聞いた事があったかな?
僕の小学時代の話だ。
◇◇◇
3年生ぐらいだったと思う。
「爺ちゃん、雨はどこから来るの?」
すると爺ちゃんは、天井を指差した。
「爺ちゃんも、さすがに分からないよ!でも、上から来るのは確かな事だよ」
と、言ってハゲた頭を、パチンと叩いていた。ああ、そうだ。その後、親父にも聞いたんだった。帰って来た時は、すでに酔っ払っていた親父は……
「雨だあ?そんなもん……んっ!」
と、天井を指差して玄関で寝てしまった。
「あ~あ、こんな所で寝てしまって!シゲ、風邪引くよ!せめて濡れてる服を着替えな!」
と、婆ちゃんにせかされ、親父は2階の部屋へ行ってしまった。何日か経ったあと、夕方、仕事から帰って来たシラフの親父に聞いてみた。
「雨は、どこからくるの?どうやって、ずっと降っていられるの?」
僕が質問すると、親父は新聞の天気図を僕に見せたのだった。
「ミズキ、この線が梅雨前線だ。この線に沿って雨が来るんだ。」
と、言った。
「じゃあ、その雨の素はどこからくるの?」
と、言うと親父は天気図の欄外を指差し……
「この辺の、湿った空気!」
と、言った。僕は……
「ふ~ん」
と、言った。良くは分からなかったが、まあ、あっちの方から、水が雲に乗ってくるという事は分かった。きっとワッショイ、ワッショイっとやって来て、僕の家の、この辺に降ってくるのだろう……そんなイメージが頭の中に浮かんだ。
でも……
こんだけ降って来た水は、今度はどこへ行くんだ?謎は深まるばかりだったのだった。
おしまい
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