第32話「林間学校」
僕の小学時代の話だ。5年と6年の時にそれぞれ、富士山麓の山中湖と日光に林間学校に行った。(いや山中湖は移動教室と言ったかな?)
林間学校に行く朝、学校のすぐ近くのコンクリート工場の前に集合した。その前には広い道路があり、大型バスが3台並んでいた。
僕は車に弱いので、酔い止めの薬を飲んで乗った。まあ、行きも帰りも騒いでいたから、大丈夫と言えば大丈夫だが一応念のためだ。そういえば友達のウッチーが……
「梅干しの種を噛んでれば大丈夫!」
と、言って、自分の口からくれようとしたが、それは断わった!
山中湖の林間学校では、専属の男のカメラマンが付き添っていた。ごっつい一眼レフ!でかいフラッシュ!!カメラを向けられると、なんか気分はアイドルだった!!!
カメラマンの名前はキクさんと言った。ウッチーが「キクちゃん」とあだ名をつけると瞬く間に広まった。そうそうウッチーは、歌を作るのがうまかった!今回はキクちゃんに写真を撮ってもらうための歌を作っていた。こんな歌だった。(作詞・作曲)ウッチー。題「アイラブ・キクちゃん」
「アイラブ、ユーラブ、キクちゃん~!ちょっと、一枚お願い~!!」
この歌を、ひたすらリピートしていた。文章で伝えられないのが残念だが、ナカナカの名曲だ。歌詞はシンプルだし、メロディが良かった!
さて、キクちゃんは、とにかく子どもたちを、あやすのがうまかった!遊んでいるつもりが、遊ばれてしまうのだ!!
「キクちゃん、写真とってよ~!」
と、言うと必ずカメラを向けてくれた。一応、撮るマネだったが、それだけで撮ってもらえた!という、満足感があった。
そうそうなぜ撮るマネが、分かったかというと、後日の写真販売で、撮れてない事が分かったのだった。すると、キクちゃんは……
「ごめんネ、うまく撮れてなかったんだあ」
と、言い訳してくれるのだ。これがまたいいのだ!!こちらには、撮ってもらってたという満足感があるから、別に気にもならない!その上、ちゃんと撮ってくれてるシーンもあり、それも本人たちが気付かないうちに、ベストショットを撮影してくれているから、逆に嬉しくなるのだった。さすがはプロだ!
こんなキクちゃんだから、バス移動の時にキクちゃんが来てくれると、バスの中はすごい盛り上がりだった。
キクちゃんの、持ちネタで最高だった「怪談話」だった。写真を撮っている人の心霊写真ネタには結構ビビった。
「キクちゃん、心霊が写ったらどうするの?」
と、聞くと……
「大丈夫、ちゃんと写らない方法があるんだよ」
と、言った。
「その日の朝に、写りませんようにって、祈るんだよ。じゃないと写るから……」
と、言いながら持っているカメラをなでる姿に、かなり焦った。これでは、あまりうるさく「撮って!」とは言えなくなる。さすがは小学生相手に、写真を撮り続けているプロだ。
今にして思うと、きっと会話の駆け引きを楽しんでいたのだろう。
つづく
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