第65話

「なるほどなるほど、こう踏めばよいのじゃな。確かに踊っている気になれるのう」


 汗一つかかず、激しく華麗な踊りを見せる少女に、ギャラリーも店員も見惚れている。何なら、奥のUFOキャッチャーをしていたカップルも、その姿にクレーンを動かすのを忘れているほどだ。

 何だこいつ――やはりただ者じゃない!


「くう!」


 だが、俺も負けてはおれん。

 あの、筋肉痛になった練習の日々を思い出せ。

 ゲーマーとしての矜持が、敗北を許しはしない。

 相手がパーフェクトを出すなら、こっちもパーフェクトを。

 たとえこの子がダンスの天才でも! 積み上げてきたあの日は裏切らない!


「ぬう……!」


 サビまで来て、同点。共にパーフェクト。

 ノーツは増え、足元はどんどん忙しくなっていく。


「貴様、何故失せぬ! このままじゃ引き分けになろうが!」

「ならそっちがミスれ! 俺は負けねえぞ! あ、あと、この曲が終わっても最後にちょこっと初見殺しのノーツ出るから注意しろよ!」

「何!? 何故わざわざヒントなぞ!」

「お前が俺の立場ならどうする!」

「……! なるほど! 理解した!」


 ダンダダンダンダダダダダダダンダダダンダダダダン!

 タンタンッタタタンタンタンタンタンタン!

 音楽と共に紡がれる、ステップ音の二重奏。

 ボルテージは既にマックス。ダンサーの踊りも最高潮に達しているが、もう得点なんて関係ない。

 これは、どっちかがミスするか! それだけの勝負だ。

 足の疲労は、既に感じない。むしろ忠実な機械のように苦痛も無く、淡々と俺の支持を実行していく。

 少女も、こんな小さな体のどこにスタミナを秘めているのか……。動きのキレがまるで落ちない。

 正確さ、正確さ、正確さ。

 互いが互いに譲らない。譲れない!

 得点は、999000ポイント! それと共に、楽曲が終わる。


「!」


 来る。

 初見殺しの!


「え!?」


 「超高速」ノーツ!


「は!」

「ぬう!」


 スダン!

 刹那、交錯する、最後の一踏み。

 それはまるで剣豪同士の戦いのように。画面には、一筋のみ生まれた太刀傷の代わりとなるものが映っている。

 パーフェクトを重ねてきたはずの少女の画面に映っていた、最後のノーツの判定結果は。

 グレート。


「ぬうう!?」


 たった一つの、下を向くノーツ。それが、この勝負の明暗を分けた。

 もしくは、音楽にノッて踊り続けてきたが故に、音楽が消えて踊りのタイミングを見失ったのかもしれない。

 少女は信じられない、という風にわなわなと手を震わせていた。


「み、認めぬー! この我が人間に躍りで負けるなぞ! っていうか、最後のなんじゃアレ! アレ卑怯じゃろ! 速すぎじゃろ! しかも楽曲関係ないじゃろ! おかしいじゃろ!」

「はは、そうなんだよ! アレ速さおかしいよな!? 知らなきゃ殆ど対応無理だし!」

「アレは卑怯じゃ! 知らなきゃ分からんじゃろ! もう一回じゃ! 認めん! 断じて認めんぞ! はい、即刻もっかい!」

「え!? ちょっと休ませ……!」

「問答無用!」


 そして、全く同じ楽曲の二周目が半ば強制的に始まった(このゲームは1クレジットにつき3曲まで)。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る