第63話
「もしかして君、今までろくに外に出たことがなかったとか? こういう町とか初めて?」
俺が言うと、その探るような声音に反応したのか、急に背筋をぴぴんと伸ばして両手を広げる。
「あ、ああ、そうじゃそうじゃ! 実はその、げーむの無い片田舎から引っ越してきたばっかりでのう。それでー、あー、なんじゃ、なんかくそげーなるものが流行ってるらしいから? それで? どんなものやればいいのかなーって悩んでたんじゃよ!」
「なんか急に饒舌だね!」
「そうでもない! 我はいつも多弁じゃ! ははは!」
手足をわしゃわしゃ動かしての精いっぱいのアピールには不信感しか出ないが……。なるほど。そうなると、俺のするべきことは定まってくる。
俺は店内をぐるりと見渡した。日本では見ないゲーム機も多くあるが、そこはハドーケン、ショーリューケンを生み出したJAPAN。格闘ゲーム、シューティングゲーム、音ゲーなど、所々に筐体が見受けられる。
「君。時間はあるかな?」
「んむ? まああると言えばあるし。無いと言えば無いのう」
「じゃあ、好きなゲームジャンルってあるかな?」
「げーむじゃんる? んー、まあ、歌と踊りは好きじゃのう」
「なら! 一緒に来て!」
「お、おう!?」
俺は少女の手を取って、店の奥へ。
安全の為に鈴はしっかり握りしめて、その筐体の前まで行く。幸運にも、誰もプレイしていないようだ。
「で、でかいのう。これもげーむなのか?」
「ああ、そうだ。ダンスゲームの名作! ダンスソングビューティフォーだ!」
巨大な床の十字パネル、目の前のモニター。アラビア語だが、何もかもが日本と同じものだ。煌びやかなライトに、ステレオから鳴る軽快な曲。少女は興味しんしんにその筐体を見つつ、
「す、すごいのう。なんじゃ、これはくそげーなのか?」
「いいや、違う。これはクソゲーじゃない、れっきとした名作だよ。面白いゲームだ」
俺は少女をステージに上げた。この筐体に入ること自体が目立つのに、片や日本人、片や物凄い帽子を被った女の子。この組み合わせが目立たないはずがなく、早くもギャラリーが集まり始める。
「くそげーじゃないなら何故やらせる? 我はくそげーとは何かを……」
「クソゲーを知りたいなら! まずは面白い名作をやってみるべし! おもっきし面白いものをやって、その後にクソゲーをやってみろ! 必ずやそのクソさとかが分かるから!」
食と同じことだ。美味いものを知っているから、不味いものとの区別が出来る。
この子はまだ、ゲームを知る味覚が未発達そのものなのだ。
俺はすぐに二人プレイを選択。けたたましい音と共に、ゲームが始まる。
「な、なんじゃ。これは。何が始まるのじゃ」
「君、踊りは出来るんだよね?」
「うむ。我の権能……あー、いや、うん。昔からやってたわ」
今なんか言いかけたが、流すことにする。
お金を入れて、二人を選択。
まずは操作の確認から。
「じゃあ、最初はチュートリアルやってね」
「なんじゃ、それ?」
「やり方を覚えるってこと。足元がボタンになってるから」
四方向それぞれのボタンが、ゆっくり流れてくる。それをこの子は一つずつ丁寧に足元で押していく。
「なるほど、なるほど。こういうげーむか。ふむ、この感覚で押して行けばいいのじゃな?」
「ああ。ぴったり重なった時にやると、高得点だ。基本的に音楽に合わせるように流れてくるよ」
「なるほどのう、なるほどなるほど。そういう「踊り」か。踊り方は覚えたぞ」
何か不穏な空気が一瞬包んだが……。気のせいだろう。
チュートリアルを終えて、いよいよ本番へ、楽曲の選択画面に移るが、ここは当然の配慮でコントロールパネルを譲る。
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