第37話
「あ、ああ、イエスイエス。アイムジャパニーズ」
「オオ、ニホンジン!」
そう言って、現地人の方はにっこりと笑った。何が何だかわからないがこっちはたどたどしい英語、向こうはたどたどしい日本語。灼熱の太陽のもと、互いが互いに歩み寄ろうとする、美しい国際交流と言えなくもない構図が出来上がっていた。
だが、
「クソゲイ、スル?」
「アイム ヘイト クソゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!」
「ヒイイ!?」
この一言で一気に軋轢が生じた。俺はよほど悪魔のような貌をしていたのだろう、相手は腰を抜かしてしまった。
郷に入っては郷に従えという言葉があるが、ならクソゲーが流行ってる国ならクソゲーを好きになれというのか?
違うね! ふざけんじゃねえ、絶対に好きになんかなるか! 俺は例え神がクソゲーを好きになれとほざいても俺はクソゲーを好きにはならない! クソゲーはクソだからな! この信念は、譲れねえ!
俺がいきなり大声を出したからだろう、周りの人が好奇の目で俺を見始めた。治安のことを気にしていた俺がこの国の治安を乱すという構図になっていることに漸く気づき、我に返る。
「ソ、ソーリー、ソーリー。アイムソーリー」
「ダ、ダイジョブ。ゴメンネ、アナタクソゲイ スキジャナイ ニホンジン」
「イエス! イエス!」
俺は親指を立てた。全面肯定するしかねえ。
「ゴメンネ、ニホンジン、クソゲイバトル ツヨイカラ。ランカー トオモテ」
「ランカー?」
ほうほう。これまた恥さらしな奴がこのエジプトにいるらしいな。まあ今はどうでもいいことだが、つまりこの人は俺をランカーだと思って話しかけたわけか。つまり人違いだったわけだ。
どことなく安心感を、どこか肩透かしを感じつつ、「グッバイ」を言いかけたが、
「ソソ。『H』サン、トテモツヨイ」
俺は言いかけた口を噤んだ。
H。日本人。エジプト。
並んだビーズに糸を通すように、それらは鮮やかにつながる。
「H……プレイヤーネーム?」
「ソソ。サッキモ、バトルシテタ。イマモタワーニ……」
「センキュー!」
俺はお礼を言いつつ、身を翻してクソゲータワーに突入した。
なんてことだ。まさか、こんなに早く――敵勢力の一人と出会うことになるなんて!
だが、むしろ俺達は警戒するべきだったんだ、と戒めたくなるのも事実。
ここは既に敵地。どこに敵がいてもおかしくない状況。そんな中で、クソゲータワーなんてわかりやすい「クソゲーの学習」に最適な場所に厳戒態勢を敷かなかったのが軽率だった。
人ごみを突破し、エレベーターもエスカレーターも待つのももどかしく、階段を駆け上がる。あいつのことだ、頂上決戦がまず見たいだろうから、3階! まだ出来て日も経っていないらしいピカピカの階段を大きな音で駆け上がり、たどり着いた三階の大きなドアを開――
「私をお探しですかねぇ、はいはい。わかりますよぉ。ゴーサコさんと一緒にいた、男の子ですねぇ」
開けようとした俺の手が、燃え上がっていた心胆が、瞬時に凍り付いた。
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