第32話

「では、出発と相成るか! いざロビーへ、エジプトへ向かうぞ!」

「ああ、ちょっと待った。その前に、どうやら抜けなきゃいけない壁があるみたいですよ」


 星見さんの方からは見えないから、仕方ないだろう。

 玄関口から、こんな早朝にも関わらずにぞろぞろと出てきた一団――全く、たった4人だけなのに、無視して通れない分厚い壁になっている。


「あらあらあらあら! ヨイちゃん! ふーちゃん! それに……! 影山君まで!?」

「露骨にわたくしを無視するわねこのクソゲー女」

「へっへっへえ、見送りに来たよ!」


 四十八願、不死川(恐ろしくめんどくさそうな顔をしている)、太平寺。そしてなんと、これは意外過ぎることに影山までこのお見送り美女集団の中に紛れ込んでいた。


「影山、何でお前まで来たんだ? お呼びじゃないぞ、ご苦労なこったな」

「いやいやいやいや、お前いきなり酷いよ! だって何やらエジプトに行って悪の組織と戦って来るんだろ? 見送りくらいさせてよ」

「……随分暇なんだなお前も。まあ土産くらいは買ってきてやるよ」


 どちらから、ともなく、拳を軽く合わせた。

 全くお節介というか何というか。少なくとも、この殆ど初対面みたいなメンバーの中で待機出来たその胆力は素直に称賛したい。


「お、おおお……一鬼さん、まさかのツンデレキャラをここで発揮しますか!?」

「……なるほど、これが噂の鬼×影。これは薄い本も厚くなる」

「いいねえ、熟年夫婦みたいじゃん。男友達特有のあっさり感、いいねえいいねえ」

「何だかんだ一鬼君って影山君と一番仲がいいのよね」

「うるせえな!? 何でお前らが湧くのそこで!」

「何か一人掛け算してるしー!?」


 女子たちの間でなんか変ないじられ方をしないか心配である。


「ところで、ふーちゃんも来てくれるなんて嬉しいわね! 絶対に家に引きこもってると思ってたのに!」


 そう言ってほっぺたをぷいぷい引っ張りながら。不死川は引っ張られながらじろりと四十八願を睨む。


「……そうしたかったよ。そもそも見送りなんて何の意味も感じないし。でもこの女の魔の手は地獄まで届くからね」


 不死川のじとじとアイズは四十八願へ。しかしそんなもの何するものぞ、四十八願は悪びれもせずに腰に手を当てて、


「そりゃあそうじゃん! 見送りもしないなんて人としてアウトだよふーちゃん! 我らが仲間が悪と戦うっていうのに、激励もせずに何が仲間か!」

「……旧時代的だね、若い若い。女の友情なぞ茶漬けにされた海苔のように黒くて脆いのに。そんなものの為にわざわざ朝早くからここまで……」

「ふーちゃん! そんなこと言わないの!」

「ふーちゃん、あたしの前で友情を侮辱するかー!」


 剛迫がほっぺたを、四十八願がお腹を引っ張りまくる。


「そーだそーだ、侮辱するなー!」


 俺も参戦してぷにぷに太ももに手を伸ばすが、迎撃システムが反応して手を踏み潰された。ケチ。


「ワッハッハ、太平寺嬢よ。お主は誰を見送りに来たのだ」


 太平寺と星見さんが向かい合っていた。

 初めて見るこのツーショットの圧は絶大である。歴戦の豪傑と、若き女傑。これから果し合いでも起きそうな組み合わせだ。


「一鬼君よ。あとまあ、一応貴方にも借りはあるから貴方も含んでいると言ってもいいかしらね」

「なるほどのう。てっきり、また相談でもしに来たのかと思ったぞ」

「……トップシークレットのはずよ、その話は」

「これは失礼したな、お嬢」


 鋭く周りに走った太平寺の視線。それをも微笑ましそうに見ている星見さん。

 そう言えば何で太平寺が星見さんの召喚アイテムを持っていたのか気にはなっていたが……いや。考えるのはやめよう。トップシークレットらしいからな。


「やっぱり太平寺さんっていいよなあ……。なんていうか、闇があって色っぽくてさ。お前、最近太平寺さんと仲良かったよな?」

「やめとけ、命が惜しければな」

「ちょっと待って、どういうこと!?」


 そういうことだ、我が友よ。流石にお前を死地と分かっているところに放るほど鬼じゃない。


「さて。お楽しみで悪いがのう、そろそろ空港内に入っておきたい。見送り感謝するぞ、皆の者」


 と、ここで星見さんが。改めて、不死川・太平寺・影山が元のポジションに戻る。


「……まあ頼んだよ」

「あわよくばそのクソゲー女を放り出して帰ってきてね一鬼君」

「頑張れよ! 気を付けろよ!」


 こいつらの激励を受けて。

 改めて俺達は、エジプトへ向かう!


「任せて! じゃあ行ってくるよ!」

「ちょっと待て四十八願!? 何でしれっとこっちに混ざってんの!? お前も留守電だよね!」


 しれっとクソゲイダーズに侵入していた四十八願にツッコむと、四十八願はすっぱあん! と口を封じてくる。


「イッチー、駄目だよ! ちゃっかり混ざって来た、しょうがないなあっていう展開にするためにここは耐えて!」

「何をしているのですかー! 貴女は留守電でしょうがあ! この大門 璃虞が許しませんよ!」

「くっそー、ばれちゃった!」

「やけにあっさり引き下がったとは思ってたけど、ヨイちゃん最初からこれを狙ってたのね! ある意味流石だわ!」


 そして約一名を退けて。

 改めて改めて、エジプトへ向かう!

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