第三章 クソゲータワーの死闘

第29話

 俺たちは直接、国際線のある最寄りの空港・日翼空港へと集合になっていた。車で片道50分はかかるこの空港に、俺は電車を使って予定の時間よりも20分も早くついているという優等生っぷりを発揮していた。朝の5時起きという連休初日の高校生にあるまじき起床時間からくる眠気と気だるさを引きずりながらやってきた空港には、しかしぽつぽつと人が見られて、朝日の下でせかせかと動き回っている。

 俺が普段安穏と眠っている間にも、国際社会とはこうして動き続けているんだなあ。そんな風に殊勝なことを感じながら歩いていると、


「来ましたね、パンピー!」

「ん? ……」


 なんだ、ただの美少女だった。俺は人違いと思って通り過ぎる。

 あんなただの剛迫にも迫るほどの美少女オブ美少女が、大門のはずはないもんな。自分の後ろに誰かが……


「こら、パンピーÅ! こっちを向くのですよ! なあに仮面取ったくらいで見分けつかなくなってるんですか!」

「あ、すいません、人違いでは? 俺はもっと変な人しか知らなくて」

「どぅあああれが変な人ですか! 私ですよ、大門です!」

「マジで!? え、お前が!?」


 こないだは最後まで仮面を取らなかったから分からなかったが……。大門の中身は、癪に障るくらいの美少女だった。

 その辺のアイドルとか軽く凌駕するくらい、可愛らしい顔。少しきつめな吊り目、表情筋がとても豊かであろうシミ一つ無い頬。

 剛迫とはベクトルの違う、超絶級の美少女が、目の前にいる。


「もったいねえーー!」


 俺の第一声と第一の感想である。


「うわあ、マジでもったいねえな! 何でそんな顔してるのに中身がそんなんなんだよ! 美少女ってのは何!? 変人だから美少女になんの!? 美少女だから変人になんの!?」

「褒めるのかけなすのかどっちかにしてくださいよ! ええ、美少女のところはすんっごく認めますけど! その部分だけフォーカスあてて話してください!」

「大門ちゃん超美少女!」

「ふっふーーん! そうでしょうそうでしょう! 仮面の下は美しいと、相場が決まってるんですよ!」

「兄より優れた弟など」

「アレは弟から秘孔突かれてるからノーカンです!」


 と言いつつ容姿には自信があるのか、どうでもいいのにセクシーポーズをとる大門。道行く人も狂った野猿を見る目……もとい見惚れているような目で見ており、なるほどレベルは相当高い。


「でも変人なんだよなあ。高級料理にうん〇かけるみたいな真似しやがって」

「誰がそんなアホなことをしていると!? っていうか下品です!」

「もうなんかクソクソ日ごろ言い過ぎて品格のボーダーラインがね。っていうか何でそんな容姿に自信あるなら仮面なんかしてるんだよ。出し惜しみか?」

「ふっ、そんなの、一鬼さん。貴方も高校生ならわかってくれるはず」


 ナルシストなポーズをとりながら、大門。


「もしも高校生エージェントなんてみんなの夢が実現した存在の、素顔を見られてしまったら! 一体私は次の日からどんな顔して学校に行けばいいんでしょうかね!? まず普通の高校生活なんざ送れませんよ!」

「理由が割と生々しい!」

「私は一応高校生活もエンジョイしてる身ですから、他校ですけど。ちな、私の学校昨日から夏休みだったんですけどそちらは今日から?」

「ああ、そうだな。ラグあるんだな」

「へえ、で、いつまでですか? 休み」

「8月31だよ普通に」

「いいですねえ! こっちは一日早い分30から学校なんですよ。まあ実質、私はここ一週間くらい前から夏休みですけどねえ!」

「剛迫をストーキングするために学校まで休んでたのか?」

「ええ、そうですよ! ですが出席日数が圧迫されて喜ぶに喜べませんがね、ずっと張り込んでましたし! 休みなのに仕事とか、私は一体何なんでしょう……。損しかしてませんよ」

「まあ……なんだ。コーヒーでも飲むか?」

「ブラックで……。ストレスが溜まると刺激を求めるんですよ」


 この子は元気なのに哀愁が漂うなあ。手近な自販機に行って、大人なブラックコーヒーとココアを買う。俺はまだお子様なんでね。


「あ、どうもありがとうございます。いいですねえ、いつも買ってくる方でしたからこういうのもたまにはいいですねえ!」

「いちいち悲しみを振りまくんじゃない! 大人になりたくなくなっちゃう!」

「はあ……。この苦味が沁みますねぇ……」


 その悲しみを背負った横顔は美しくも儚い。苦味を味わい微笑むその笑顔のなんと青色なことか。

 だが、そこに、


「あ、二人とも! 早かったのね!」

「剛迫さん!」


 にっこにこ、暖色に染まった笑顔が現れた。

 いつものひまむらルックに大きなリュックを背負い、とてとてと駆けてくる剛迫は、旅行でうきうきしている子供のようでとても微笑ましい。

 それを見た大門は「きゃほー」と妙な声を上げてハイタッチした。笑顔にも、暖かな色が戻っている。

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