第21話

「まあまあ、剛迫、落ち着けって! 今更何をするってわけでもないだろ!」

「ぬうう……! 一鬼君はいつもこの女の肩を持つのね!」

「肩を持ってるんじゃないわ、正しい方の味方なのよ一鬼君は」

「アアー!? 何ですってこの蜘蛛女アアアアア! ヨイちゃん、太平寺対策のお茶漬け! お茶漬け持って食べさせるのよーー!」

「はい、ゴーちゃんもういいでしょ、よしよし、どうどう。離れる離れる。どーせゴーちゃんじゃ勝てないんだから」


 と、やはり最年少に窘められて半ば強引に四十八願に引きはがされる剛迫。太平寺は服を正し、剛迫は未だに敵意に満ちた目で太平寺を睨みつけている。


「い、一体なんですか、いきなり凄い争いを……。あの人は?」

「あー、まあ、すっげえ仲が悪い人ってことで」


 突然の剛迫の変わりように大門は困惑している様子だ。まあそうもなるだろう、なんて思って大門を見ると、大門はクナイに手をいつでもかけられる位置に降ろしていた。

 眼も鋭さを増し、まさに「臨戦態勢」の四文字が似合う佇まいである。


「ど、どしたの大門!?」

「なんか、邪悪を感じるのです! あの人はどこか、こう、ラスボスみたいな匂いがするんですよ!」

「メタいな! だけど流石に観察眼はあるな!」

「ふっふっふー、当然のことです!」


 一応は前線のエージェント、というわけだ。そしてその観察眼に任せたまま、太平寺に詰め寄る勇敢と書いてアホと読める大門ちゃん。


「やいやい、そこのラスボス臭のするJK! ぜんっぜん貴女のことは知りませんが、なんか危険そうなので出ていくのです!」

「ああ、大門ちゃん! 流石ね、見抜くなんて! そう、こいつは人類史上類まれな巨悪中の巨悪なのよ!」


 っていうか俺達とのクソゲーバトルを見てたら知ってそうなもんなんだが、その辺ちゃんと見てないんだろうなこいつ。と思う。きっと石川さんは知ってるんだろうけど。

 さて、これらの口撃を受けて太平寺の反応やいかに。


「――さあ、一鬼君。こんな平均IQが50程度しか無い部屋に居たらいいアイデアも出ようがないわ。せっかく貴女と四十八願はそれなりにあるんだから、ちょっと隣の部屋に行きましょう」

「なァにがァ平均50よこのアンポンタン! その知能で悪事をはたらくような貴女よりはマシですー!」

「何が知性ですかー! その賢いおつむを怪力で破壊してやりましょうかー!」


 この二人は親友になれる。俺はそう確信した。

 太平寺はそんな俺ののんきな考えを遮断するように、俺の手をエスコートする王子様のような優雅さで取ってくる。


「行くわよ」

「あ、ちょっと!」

「あー、ダークサイドに落とす気よ! シ〇よ! アイム ユア シスター! とか言われるわよ!」

「NOOOOOOOOOOO!」

「だから何でお前らそういう変なとこで息が合うの!?」


 かくして俺は、隣の部屋に太平寺と入ることになった。

 隣の部屋は、元・忍者部の部室である。昔の名残が色濃く残されるこの部屋と開発室の道は掛け軸を通して開かれることになるので、秘密の話をするにしてもかなりガバガバの筒抜けだが、同じ空間にいないだけでも違うということだろう。


「さて、一鬼君。話はまあ聞いてたわ」


 太平寺は、俺の横の水蜘蛛の下に陣取ってもたれかかる。

 部屋を移動するだけで、さっきまでの冷たい空気は鳴りを潜め、そこにいるのはただの綺麗めで、高校生とは思えない色気を讃えた美女。

 クソゲーに携わるようになってから女の子と近い距離にいるのは珍しくなくなったが、太平寺の蠱惑的な空気は、開発室三人娘の誰も持っていないだけに耐性が無く、まるでここにいるだけでイケナイお店にでもいる気にさせる。


「ってうか一応四十八願が警戒してただろうに、どこで聞いてたの? あいつに会わないの無理じゃないか、位置的に。それに何で話してるの聞いてたの?」

「なんかどっかの壁が粉砕される音がこの部屋の辺りから聞こえたからすっ飛んできたのよ、一鬼君の危機じゃないかって。そしたら下の部屋のドアは壊されてるわ天井は破壊されてるわで。それで、そのまんま下の部屋で話を聞いてたの。まあふーちゃん先輩とおじ様が来はしたけど、音がしたから様子を見に来たって言っといたわ」

「なるほど納得。動機がなんか怖いけど」

「言っておくけどわたくし、重いと思うわ。自覚があるくらいには」


 まあ知ってたけど。情は深いと思うけど。それをいざ向けられると、うん。ヘヴィだぜ。


「じゃあ、聞いてたんだな? 俺達が今……」

「ええ。戦闘能力とクソゲー耐性を持った人を探してるんでしょう」

「そうだ! ま、まさか! いや、俺も思ってたんだけどさ! お前なら適任なんじゃないかって! まさかこの世界の危機にお前もあいつとの確執を!」

「却下」


 自然体に。オーラに機微も無く。微動だにせず。さも当然の定理を言い切るように、太平寺。

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