第11話

「でも、分からないわね。その話を聞く限りだと、私が絡む余地は一切無いように思うんだけど。私は一体どういった関係で、その悪の組織に狙われているのかしら? 私には一体どんな血統の秘密があるのかしら」

「無いだろ芸人だろお前のお父さん」

「君はただの民間人だ。凡人の血だ。普通の出自だと私が自信を持って言おう」

「完膚なきまでに!」


 剛迫がちょっとショックそうに。少し本気が混ざってたらしい。んなはずねえだろと。


「それについての話は、至極単純なのだよ。子リス、例の映像テープを」

「は、はい!」


 今の今まで衛兵のように硬直していた大門が動く。何かの機器をまた勝手に俺達の部屋のテレビに繋ぎ、映像を再生した。

 何だと思うと、


「あ、あれは!?」

「そう。君たちの、クソゲーバトル・エクストリーム決勝戦の様子だ」

 それは、クソゲーバトル・エクストリームの中でも確かに俺にとっても印象深かった場面だ。

 決勝戦の相手・LОST――太平寺 暁舟の放った、ゲームの放つ絶望を前にパニックになる人々。心が凍り、折れ、砕けていく中、俺と剛迫が放ったレヴォリューション。

 それは観客の中にあった怒りの記憶を解き放った。

 観客に命の炎を蘇らせ、あまつさえ、共通体験を通したクソゲーの語らいで観客席に笑顔まで咲かせたのだ。


「は、恥ずかしいわね! もう! 恥ずかしいから見ないようにしてたのに!」

「お前の羞恥心はどこにあるんだよ!」

「この試合は、クソゲーバトルの中でもかなり異質の試合だ」


 俺達を無視して、説明を再開する石川さん。


「クソゲーは苦痛の塊であり、それを突き付けて、絶望させ、怒らせる。それこそがクソゲーのはずだと私も認識していたのだが、君達の放ったこのクソゲーはその認識を変えさせるに値した。絶望に沈む人々に怒りの炎を灯し、笑顔を戻らせた。――クソゲーとはそのクソさを笑い飛ばすもの。その出来の悪さを笑うことで楽しむもの、だという楽しみ方……。いわゆるクソゲーの「陽」の面をこうまで引き出した試合は今までに見たことが無い」

「そ、そんなあ! え、そうなの!? 意外にそうなの!?  クソゲーってだけどこんなもんよ結構!」


 めっちゃニコニコ顔で手をぶんぶんする剛迫。すごく嬉しそうで何よりです。御馳走さまです。

 だが石川さんは鋼のマスクのような真顔になり、


「――だからこそ、奴らに目をつけられた」


 瞬間、空気が締めなおされる。

「奴らは娯楽の神様を利用して世界をクソゲーに染めようとしている。しかし、それには究極の命題に娯楽の神様なりの答えを出してもらわなくてはいけない」


「究極の命題?」

「クソゲーとは、何か」

「……」

「線引きの為に必要な「定義づけ」を、ベス神自身に持たせなくてはいけないのだ。そのために奴らは無数のクソゲーのサンプルを、ベス神に見せ、プレイさせている。他には、連中がクソゲーバトルをクソゲーハウスで仕掛けて、その時の映像を見せて学習させているということもしているらしい」

「ひでえ!」


 クソゲー漬けにされる神様。これ以上に酷い行いはそうそうありはしないだろう。


「そしてその中で、剛迫……すまいるピエロのこの映像がベス神の目に留まったらしい。これは何だと。何故、あれほど絶望していた人々が蘇るのかと。クソゲーとは、何なのだ、と。概ね順調に行っていた「学習」に、綻びが生じた」

「それで……剛迫の、すまいるピエロのクソゲーを調べ上げようとしたわけか?」

「そういうことになる。ゲーム・フロンティアに上がっているすまいるピエロのゲームは既にプレイ済みだろう。しかしベス神はそれ以上のデータを要求しているのだろう」

「だから、剛迫にクソゲーバトルを仕掛けた……」

「データを取るためにな。あのタイミングで仕掛けてきたのは、恐らく人目があれば子リスの監視が緩まると思ってのことだろう。強硬策だったわけだ」


 さっきの戦いで、また一つデータが取れてしまったわけか。既に敵の計画に一つハメられたのだと思うと、悔しさが沸き上がる。


「しかし人目がある上に、子リスが乱入したためにそれ以上の手出しは出来なかった。が、きっと今後はより機会を狙って君にクソゲーバトルを仕掛けてくるだろう」


 コキコキと、首を鳴らして嘆息する。


「彼らの思惑だと、恐らくは君に警戒させないように、自然にクソゲーバトルを仕掛けてくる予定だったのだろう。ただのクソゲーバトルを仕掛けてくる相手として認識させ、知られずにデータを採る予定だったのだろう。しかしこうして私達と接触した今、もうその手は通じない。奴らはより露骨にデータを採りにくるだろう。そしてゆくゆくは、強硬策にも出る可能性もある」

「それって……」

「さらおうとするだろうな。それが一番だ」


 悪びれもせず、しかし茶化すこともなく、事実だけを話し続ける石川さん。

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