第68話
クソゲーは、実際にプレイしなければ分からない部分が非常に多いものだ。
最も代表的な例は、操作性があげられるだろう。クソゲーのプレイ動画などでは決して分からない操作性の悪さは、ものによってはそのクソゲーがクソゲーたるキモだったりする。ジャンプをしたときに空中での制御が出来ないという操作性ならば、ステージによっては相当なストレッサーになり得るし、慣性が異様に乗るようなゲームならばその御しがたさが咬筋力を大いに鍛えてくれる。
そして何より、ゲームをしているからにはゲームそのものに自分自身のリソースを割かなければいけない。思考力、集中力、判断力を発揮する脳みその動き、それを適用するための時間。ものによっては連打などで失われる体力。このリスクがあるからこそ、クソゲーを真にクソゲーとして感じられるのだ。
弓道の動画を見て、ただ引っ張って矢をぶち当てるだけじゃんと高をくくっていても、いざ実際にやってみれば、矢を正確に真っすぐ飛ばすことがどれだけ困難なのかを味わうことになる。
やってみるのと、見てみるのとでは、圧倒的にその距離が違うのだ。
「……」
俺がプレイを開始してから、既に5時間が経っていた。
俺は今、あの時は血反吐まで吐いたグローリー・US セカンドをプレイし、その最終盤まで来ていた。ラスボスは前作・グローリー・USにおいて、プレイヤーを最後までナビしてくれた愛らしい妖精、その成れの果てである。
途中参加の俺だ、周りの審判達は既に審査を終えて俺の終了を待っている。タンカが呼ばれないのが不思議なくらいに全員が憔悴の極みであり、死屍累々という言葉がこれほど当てはまる状況など存在しないと思わせるほどだ。
『グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
最後の一撃は、せつない。
撃破したかつての友は光となって空間に消えていき――闇に包まれた世界に、平和が、光が、戻るはずはなかった。ただ『世界の均衡は完全に崩れた』と白抜きのメッセージが入り、スタッフロールも後日談も何もなく、『FIN』のメッセージ。当然の如きバッドエンドだ。
「さあ! 最後の審査員も、遂にプレイを終えました!」
須田や星見さんとの戦いが途中で終わっていたから気が付かなかったが、ようやく本来のクソゲーバトルというものを味わった気がする。
二本のゲームを立て続けにプレイするという長丁場――。いや、プレイしきる必要はないらしいが、それでも一試合数時間はかかる試合形式である。このテンポの悪さは、それもクソゲー的な表現なのだろうか。
作者たる二人は、災禍覚醒もパッチ適用も使用しなかった。
それどころか、技名を叫ぶことすらしなかった。
ただ神妙にして、俺達の評価を待つのみ。周りばかりが叫んだり盛り上がったりしていて勝手にエンターテイメントしてくれていたが、当の本人達はあくまで見届けるのみだった。
それはきっと、俺に落ち着いてプレイさせるための配慮だったと思う。俺はこのクソゲーバトルの場には慣れていないから、余計な雑音を入れないでいたのだ。
あくまでフェアにするために。
「では! どうぞ、ジャッジをお願いします、みなさ……」
司会のコールと共に、食い気味に赤青のボタンを押す他の審査員たち。俺を除いた4人がつけた判定は――
LOST
LOST
すまいるピエロ
すまいるピエロ
「ま……真っ二つです! ラストの一票で、全てが分かれます!」
まったく、あつらえたような状況にしてくれるものだ。観客席もざわついている。
せめて俺が入れるまでもなく確定してくれていたら、と甘っちょろく思っていたわけだが、そんな甘い期待はえてして叶わない。残酷だなあ、まったく。世の中ってやつは。
プレッシャーは、思ったよりも感じなかった。――きっとそれは、俺のこの判断を支えてくれるものがあるからだろう。俺は剛迫を見やる。
どこまでも、俺のことを信じてくれる奴。
俺の判断を、今までの経験を、信じて信じて信じぬいてくれた。
その期待に報いるために出来ることは。
俺自身のゲーマーとしての矜持に従うことだ。
ありがとう。
お前が信じてくれるから。
「勝者は、LOSTだ」
俺は。
俺のままで。
俺のままに、いられるんだ。
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」
俺のジャッジに、審判全員が俺に顔を向けてきた。
いや、審判だけじゃない。観客全員、司会ですら、俺に『マジ?』と言いたげである。
何だ、何を文句があるってんだよ。
「えーっと……あ、貴方!? ほ、本気です!? 貴方のチームですよね、すまいるピエロって!」
「ああ、そうだよ。俺は俺の感じたままに判断しただけだぞ」
それはたとえ、同じチームだろうと関係ない。
ゲームはゲームなのだから。
「……理由を聞かせなさい、一鬼君。納得出来ないわね、それじゃ」
噛みついてきたのは、太平寺だった。
これは、太平寺としても少し意外だったのか?
俺は答える。
淡々と。淡々と。
そう。
淡々と、なるように。
淡々と、なりますように。
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