第67話

 審判代理を指名して、この戦いの決着を今ここでつけたい。

 なるほど、その気持ちは分かる。――いや、太平寺のことだからこっちが分かったつもりでも実際の思惑たるや、全くもって闇の中。深淵の中と言ってもいい。

 だが、どんな策謀だろうと、どんな奇策だろうと、どんな奸計だろうと。こんな判断があるだろうか?

 敵のメンバーに審判をやらせる。

 そんな突飛で、リスクしか見当たらない判断が。


「どういうつもりなの太平寺……?」


 さしもの剛迫も、これには驚いているようだ。

 しかし太平寺は、肺の中に溜まったストレスを数百分の一でも吐き出すようなため息をつく。


「言葉の通り。それとも、貴女は認めない? 一鬼君がこの戦いの審判になることを」

「……いえ。勿論、願ってもないことよ。一鬼君にこの舞台でジャッジしてもらえるなんて、それこそ最高だわ」


 俺は一体どこまでこの二人に認められてるんだ。ここまで行くと、背中がむずがゆくなる。


「けど、怪しすぎる。一体どんな策謀なの? 奇策を打てば何とかなるっていうのは、漫画の世界だけの話よ」

「策謀? 奇策? 策でも謀でも計でも無いわ。わたくしはこの判断をするのに、脳みそを一切使ってない」


 そう語る太平寺は、自分の頭に指で作った銃を突きつける。


「けどね。脳みそを使わなくても分かる。わたくし、この戦いがこの場で決着がつかなかったら、貴女を殺したいほどに憎みすぎて、まともじゃあいられなくなるわ」

「……」

「あれだけの大口叩いてくれて。ゲーマー共を復活させちゃって。わたくし、貴女がとっても憎いの。自分でも把握しきれないくらい憎いわ。今わたくしが感じている憎しみを全て発散したとしても、その奥にあった認識しきれていなかった憎しみが一気に襲ってくる。それくらいに憎いのよ、わたくし」

「じゃあ何か? ここで決着がつけば、それも全て抑え込めると?」

「勝てばそれでよし。負けたら、そもそもデータが消される。あきらめもつくというものよ。――いずれにしても、わたくしと貴女の戦いは、こんなアクシデントで終わらせたくなんかないわ」


 絶対に決着をつける。

 何が何でも、この場で決着をつける。


「それに……どこの誰とも知れない輩よりは、貴方にジャッジされた方がずっといいわ。最高に最も近いゲーマーたる貴方のジャッジなら、わたくしも受け入れる気になるというものよ」

「……」

「わたくしの腹の内は全て明かしたつもり。いかが?」


 見ると、さっきまで話し合いをしていた運営チームも俺達の会話に聞き入っていた。

前代未聞。敵チームのメンバーを審判代理として据えたいという提案。敵を味方に迎え入れる懐の深さといえば聞こえがいいが、こいつは懐に何を仕込んでいるか分からない危うさがある。

これを受け入れるかどうかの判断は、全て。

剛迫に委ねられる。


「貴方はどう? 一鬼君」

「審判がか?」

「ええ。以前やったようにはいかないわ。余りのクソさに、命を落としかねない。その魂すら汚濁にまみれて、死後は天国にも地獄にも拒否されるという逸話が……」

「クソゲーって何なの? 悪質な黒魔法か何かなの?」

「クソ魔法ね」

「小学生か」


 このブラウンローブのクソ魔道師め。

 まあ、無駄話はさておき。


「お前がやってほしいって言うんだったら、やってやるよ。いいんだな? それで」

「……本当にいいのね? 地獄よ?」

「何言ってんだよ、今更」


 さんざん人をクソゲー漬けにしておいて。今更心配するとは、ずいぶんと都合の良いお姫様だ。


「俺は大会が終わるまでは、すまいるピエロのテスターだ。プレイするのは当然だろ?」


 覚悟しろ。散々に酷評してやるから。

 いつものように、な。

 そう脅しをかけると、剛迫は笑う。お姫様のようなルックスなのに、子供のような純朴な笑顔だった。


「ええ。じゃ、お願いするわ」

「おう」

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