第62話

「第四の罪・『怠惰』」


 戦闘のチュートリアルに入ったこの作品が次に見せたクソ要素。それは戦闘システムの大幅な劣化。

 今作の主人公はやる気がないという設定でも付いているかのような主人公の攻撃モーションは、非常に緩慢。しかもどんな攻撃でも敵の前まで歩いていくために、そのストレスは半端ではない。

 しかも動きが前作の技を中途半端に真似ていて、古傷をしっかり抉ってくるところもマイナスポイントだ。

 ストレスによって、体に襲い掛かる苦痛の種類が多すぎる。もう、どこが原因で俺の脚が、膝が、腕が、肘が震えているのか、分からない。血は無慈悲に逆流をしてきて、口内に血が溜まる。


「貴方は不運だったわね。たまたまテスターになるように剛迫さんに迫られていたばっかりに、今はそのザマになってしまっているわ。……もったいないことよ」


 そうぬかすと、コツコツと俺に歩み寄ってくる太平寺。

 チュートリアルのクソ戦闘を背景に。妖艶な笑みを見せて、右腕を差し出してきた。


「うん。やはり……決めたわ。貴方、わたくしと一緒に来ない?」

「は……?」

「そもそも、貴方が剛迫さんに協力しているのは、おかしなことじゃあなくって?」


 血に濡れた俺の顎を持ち、くいと引き上げる太平寺の手つきはどこまでも優しかった。


「彼女はクソゲーメイカー。貴方の敵だった女よ。貴方が憎くてたまらなかった相手じゃなくて? 普通の世界にもクソゲーという地雷をまき散らすような女よ」

「……」

「そしてわたくしは……。やっぱり、貴方を欲しいと心から思ってるわ。貴方と交わしたゲーム談義、その広範な知識と溢れ出る情熱……。ねえ、わたくし、今回の復讐が済んだらね。また一から始めようと思ってるの。ゲーム作り」

「……」


 太平寺 暁舟が再びゲームを作る。

 クソゲーではなく、普通のゲームを作ると宣言した。

 それはつまり、ゲーム界に新たな至宝が出来るということ。

 剛迫の作るような産業廃棄物ではなく――あのグローリー・USの作者が作る芸術作品がまた一つプレイ出来る。


「それに、貴方は協力してほしいわ。そうすれば、今すぐこの場から貴方を逃がしてあげる。このゲームのクソ要素はまだまだあるわ。貴方の体が心配よ……」


 だから、お願い。

 この手を、取って。

 地獄の中で差し伸べられた手と、慈愛の表情。そして、輝かしい未来の提示。

 俺は、この戦いで剛迫と手を切るとはっきりと宣言していた。

 だからこの戦いが終わってしまえば俺はフリー。どうするにも自由な身で、太平寺に協力しようと何のしがらみもないのだ。

 今はきっと、太平寺は狂っているだけ。

 復讐に狂っている。それが終われば、こいつはまた神域のクリエイターに戻る。

 ゲームの歴史に、きっとまた輝ける一ページを刻む作品を創ってくれるだろう。


 俺は――


 太平寺の手に手を伸ばして。

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