第51話

「……へっへっへ、やっと、かあ。強くてキツかったんだよね、あたしも……」


 役目は終わった。そう察した四十八願は軽快な動きで後ろに戻り、俺達の間の席につく。鼻血を流して青あざを作っているが、その表情は晴れやかだ。

 その顔をニヤニヤ笑いで写メっている不死川はとりあえず、ポテチはく奪の刑に処す。

 一方、四十八願の相手を務めていた星見さんは、あちこちが腫れた顔を右手で拭う。

 勝負は再開――かに思われたが、


『え、えー! ですが、ちょっと待って下さい! 先ほどのすまいるピエロのメンバーの行為に、裁定をまずは下したいと思います!』

「くっ……!」


 やっぱりか。当然と言えば当然だ。

 立ち上がるまでの時間稼ぎとはいえ、リアルファイトを仕掛けたのはこっち。何かしらのリスクはあるはずだ。


「えー、クソゲーバトル・エクストリームルール・第39条! 対戦中の過度なリアルファイトは……」

「喧しい」


 極卒。鬼神。羅刹。魔人。怪物。

 どんな禍々しい強者の表現を並べても到底表現しきれない『気』が、この塔を――いや、このアリーナ全域を支配する。


「たかだか我にちょっかいをかけたに過ぎぬ。それによる罰など不要」

「え……で、ですが、規則は規則で……」

「我に恥をかかせるか?」

「はっきり言おう」


「だ ま れ」


 この圧倒する眼の前で何か意見できる生き物がいるとするなら、それはもう全能神か大悪魔くらいのものだろう。

 悪鬼羅刹どころではない――これはもう、『星見 人道』という個別のカテゴリだ。怒りを向けていられずとも肌が粟立ち、死神の足音が聞こえる。

 この人、なんか出る大会を間違えてる気がする。

 そんなふざけたことが頭を掠める頃には、実況は「……はひ」と見ているのが忍びなくなるような顔で服従を示した。

 星見さんは法衣を正すと、気を鎮めてから俺達に向き直る。

 鬼神をも超越する漢は、『敵』を相手取るに相応しい笑みを見せた。


「待たせたな、剛迫……。しかし、見事。もうこの場に立ち上がって来ないと思い込んでいたがな」

「それは悪いことをしたわね……。でも、私には転んでもね。守ってくれる、立たせてくれる、歩んでくれる人達がいるの。そうそう簡単に、倒れたままではいないわ」

「……」


 天落は、すまいるピエロを凝視する。

 メンバー一人一人の顔を。自らの敵の顔をしかと目に焼き付け――口を開いた。


「我は今年で、52を迎える。貴様はせいぜい、17といったところか?」

「ええ。17よ。悪いわね、年季が無くて――」

「年季が無い? ワッハッハ、ぬかすな、年寄り」


 星見 人道はゆっくりゆっくりと、後ろのステージに戻る。

 そして改めて俺達に向き直ると、意地の悪い卑屈さをその顔に刻んだ。


「4人合わせれば、60を超える――大層な年寄りではないか」

「ふふ、まさかこの歳でおばあちゃん扱いされるなんてね」

「ワッハッハ。この天落、よもや敵を見誤るとは。そうだ。考えても見れば、落ちた天に舞う蝶などおらぬ」

「ええ。おどけたピエロが、踊るだけよ」

「かくして年齢の差はとうに埋まり。我も貴様らも、とうに二手を落としておる」

「ええ。そして、残るは共に一手。災禍を握るのは年上、パッチを握るのは年下……」

「畏れも不要。遠慮も不要、恐怖も不要」


 レッツゴー!

 クソゲーバトウッッッッ!

 二人の掛け声と同時に、会場が一気に沸き立つ。

 迷いを捨てた剛迫、俺達を認めた星見 人道――

 真の闘いが、ここに幕を開けたのだ。






 熾烈。

 激烈。

 猛烈。

 鮮烈。

 この闘いを飾る言葉は、どれを用いても足りない。全て合わせて余りあるほどの激戦だった。


「ハア……! 食らいなさい!」


 ギガンテスタワー・ステージ4。

 氷の世界の中を進む騎士は、空中を飛ぶ鳥にアッパーを繰り出すところだった。しかし――

 ずるりと氷で滑り、アッパーが失敗する。


「受けよ、すまいるピエロ!」


 窮奇伝・ステージ四。

 敵が三体、縦に並んで歩んできて、回避不能の強制エンカウント。


「氷の牙は剣を砕く……! アイシクル・ソードブレイカアアアアアアアアア!」

「不可避の凶爪に引き裂かれよ! 『壊滅爪・「天蓋ノ型」ァ!』 ぬええええええええええええええええい!」


 二つのクソ要素が同時に炸裂すると、二人はほぼ同時に後ろに吹き飛んだ。


「ぬうううううう!」

「くうううっっ!」


 足でステージにブレーキをかける。その威力に揺れる塔、巻き起こる歓声。そしてまたも二人は同時に動き、次の手が繰り出されるタイミングに合わせる。

 闘志に漲る二人の目の交錯、その火花に呼応するかのようにゲーム達は自分の中のクソ要素を惜しげなく発動させる。

 ギガンテスタワーは、三度目のスリップで頭を強打して死亡。

 窮奇伝は、縦に並んでいたうちの上段部が降ってきて、連続のエンカウント。


「砕け、唄え! 氷河の葬蒼曲! アイスバーン・ドロップ!」

「連なる爪……絶えぬ斬撃にひれ伏すがいい! 『壊滅爪・「連ノ型」』アアアアアアア!」


 ダメージが再び同時に飛ぶ。


「っつあああああ!」

「ぐぬうううううう!」


 出されたままのUSBスロットに手をつき、縋るように立ち上がる剛迫。片膝を突いて拳を地面に打ち付ける星見さん。

 とうに二人は満身創痍。だが無情に続く、プレイ。

 そして陰るどころかその勢いを増すばかりの、二人の闘志。

 絶対に、自分は勝つ。

 目の前の相手を乗り越える。

 ジョーカーを引き裂くスペードの3は、我が手にあり。そう言わんばかりだ。

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