第47話

『こ、これは前代未聞! 二つものバグの同時発動です! 窮奇……古代中国の悪神がその一角の名を関するこのゲームは、果たしてどのようなクソっぷりを見せつけるのかーーー!?』


 窮奇のゲーム画面は未だにこれといった変化は見られなかった。ただ主人公の僧が歩き、目の前から迫りくる相手と今まさに戦おうとしているところである。

 一方のギガンテスタワーはオハン・リザードを打ち倒し、次のオハン・リザードはジャンプでスルーである。

 窮奇伝は何やら様々なボタンを試しているらしいが、攻撃ボタンらしきものがないのか、衝突を許してしまう。


「どうしたのかしら、そちらの窮奇は……攻撃ボタンが無いのかしら!?」


 画面がヒビが入ったように割れる。

 一見すると攻撃ボタンが分かりにくいゲームとしてギガンテスタワーと同種のクソ要素を搭載しているように見えるが――違う。

 次の画面は、RPG風の戦闘画面だった。


「!」

「シンボルエンカウントか……」


 RPGにはしばしば、マップ上の敵に触れることでバトル開始となるシンボルエンカウントというシステムが採用される。この窮奇伝もまたそう形式をとっているようだ。

 そして出現する敵は――


「え……!?」


 禍々しい、赤色の毛並み。厳めしい虎の顔に、背中に生える黒き翼。

 まだレベル1の僧の前に立ち塞がったその生物は、ついさっき主人公の仲間達を蹂躙したばかりの怪物・窮奇。


「ワッハッハ、運が良い。ここでこやつを呼び寄せるか」

「い、一体何なのこのバグは……?」

「その身を以て知るがよかろう!」


 窮奇の先制攻撃・『かえんほうしゃ』。僧の体力の20倍近いダメージを与え、一瞬にして灰に帰した。


「あつっっ!」

「剛迫!」

「まだだ! まだもう一人が残っておる!」


 現在のプレイ人数は二人。もう一人を指し、拳を腰だめする星見さん。もう一方の審判もまたシンボルエンカウントをし、バトル画面に移行。

 出現する敵は――赤黒い霧で構成された幽霊のような敵だった。


「さっきと違う……?」

「さりとて、今は勝てるような相手ではないわ! 食らうがよい剛迫! 『饕餮の赤牙』ァ!」


 饕餮の赤牙の名を持つ『まっかなきり』攻撃。それでまた僧は10倍近いダメージを負ってしまい、即座に死亡してしまう。

 そして理不尽なエンカウントによる怒りは、苛立ちは、そのまま剛迫へのダメージに返還される。


「くうっ!」

「……!」


 よろめく。指先が震えていて、痛みを何とか逃がそうとしているのが痛々しい。

 饕餮の赤牙――星見さんが発動させたバグの正体はしかし、これで判明した。


「エンカウントが混ざってる……」


 饕餮の赤牙。

 それはエンカウントを狂わせて、この地点で出現するはずのない強獣を呼び寄せるというバグだ。序盤では絶対に敵うはずのない相手を出して心を一気にへし折りにかかる、まさに力技。

 だが――


「天落……貴方、ぬかったわね! このバグを、序盤に使ったことは!」

 流石は俺と同レベルのゲーマー。早くもこのバグの穴を見出したようだ。苦痛の中からでも吠えてみせるその姿は、男顔負けの勇ましさだ。


「この手のバグは、そのランダム性故に……再序盤で出してしまえば、絶対に敵わなくなってしまうわ。一部のモンスターとのエンカウントが混ざってしまうならまだしも、全てのモンスターと混ぜてしまえば攻略不可能の詰み状態となる! つまり、ゲームとして成立をしなくなるのよ!」


 少しだけ教えてもらったものの中に、クソゲーバトルにおけるクソゲーの『最低条件』というものがあった。それは、クソゲーは最低限、攻略可能であること。つまり、詰みの状態を作り出してはならないのだ。

 また、単純に余りにも難しすぎる、攻略させる気がないようなゲームは、やっていると単純に『飽きる』。どうせこんなの無理だと思い始めてしまうのだ。

 難易度の高さで怒りを誘うには、憎しみを買うには、いけそうだと思わせて突き落とす。それが肝要だ。

 しかし、百戦錬磨の天落。そんなことは百も承知のはず。初歩的な失敗をするとは思えない。

 もしも俺の予想が正しければ、もう一つの誘発させたバグ・『渾沌ノ黒尾』。あのバグは――


「それに、やられっ放しの案山子じゃあないわよ、こっちだって……! 見なさい!」

「ぬ……?」


 星見さんに指示したのは、ギガンテスタワーの現在の状況。じろりと目玉を動かし、己が敵の姿を目に映す。

 そこにあったのは、ギガンテスタワーの城門前に立ちはだかる最初のボス・『ランページ・ペガサス』が今まさに降り立つ場面だった。

 剛迫は痛みを振り切り髪を流し、詠唱を開始する。


「凶つ双翼よ、神の域に届かぬ脆弱なる愚者を睥睨せよ! 『スカイブルー・ステイシス』!」

「ほう……」


 星見さんをして、感嘆の息を漏らす。

 びきびきと筋肉が周期的に痙攣しているところを見るとダメージがしっかり通っている。つまりスカイブルー・ステイシスは審判のメンタルにもダメージを与えられているのだ。

 ゲーム画面には、一切地上に降りてくることなく、空中から攻撃を仕掛け続けるペガサスの姿が映っていた。


『おおお、すまいるピエロ、負けてはおりません! 一切降りてこない! 手の届かぬ場所に居続ける相手へのストレスは、皆様も周知のことでしょう! これはウザーーーイ!』


 断言してもいいが、多くのゲームにおける『空』という領域は、一種の聖域(サンクチュアリ)となっている。

 敵ばかりが悠々とそこを飛行し、攻撃をしてくる。そして追いかけても追いかけても高度が足りず、逃げてしまう。このストレスは地味ながら凄まじく、まさにY軸という名の魔物だ。

 それが、ジャンプの出しにくいこのゲームに搭載されたらどうなるか?

 結果は目に見えている。


「ぬう!」


 少量のダメージばかりだったようだが、ここで大きなダメージが星見さんに通ったようだ。全身を震わせ、一歩退く巨体。

 剛迫はそこで、一歩前に踏み出す。気迫によるものか周りの塵が霧散し、波紋となってステージ上に広がっていく。


「これで終わらないわよ!」

「!?」


 何!?

 ここから追加攻撃?


「おい、剛迫!? 何をする気……!」

「速攻を仕掛けてきたのよ、あっちは! こっちも速攻を仕掛けないとやられるわ!」


 ダメージのせいだろうか? もしくは緊張と焦りからか?

 気が付いていない――星見さんが発動させたバグの、もう一つの効果。星見さんが今、向かおうとしてるクソゲーの方向性に――

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