第45話

「ちょ! ちょちょちょ、ちょっと待ってください! 星見さんはこの体だからこそ大丈夫なんですよ!? いくらなんでもそれは……大会的に……」

「何を言ってるの! 応えてみせるわ、星見さんの心意気に! 私は受けて立つわ!」


 全く想定していない事態だったのだろう。場をつなぐためか、司会は剛迫に取り繕った笑顔で提案する。


「じゃ、じゃあ! 試しましょ!? ちょっと、ほんのちょっとレベル9で流しますから! それで決めてください!」

「たかが痛いだけなら、耐えられるはずよ! やってみなさい!」


 何この烈女。

 観客席は大いに沸き立っているみたいだが、俺は今すぐにでもあそこにTNT火薬ぎっしりの爆弾を投げ込みたい。


「じゃあ、いきます! 3、2、1!」


 ビリリ。

 剛迫は微動だにしない。


「……大丈夫ですか?」

「……大丈夫、よ、ええ、この、くらい……」

「目にすっごい涙溜まってますよ? 痛いですよね、かなりやばいんですよね? 更に痛いのあるんですよ、すっごい涙目なんですけど?」

「大丈夫よ! こ、こんなの、屁でもないもの!」


 俺は思わず飛び出して、四十八願と共に剛迫の説得に向かった。


「オイこらアホ! 意地っ張り! やめろって、強がるな! もう今にも泣きそうじゃねーかお前!」

「泣いてないわよ! 目にゴミ入ったの!」

「ゴーちゃん、痛みって案外ホントにシャレになんないんだからね!? 死んじゃうからね!? 死因・クソゲーって嫌でしょ!?」

「クソゲーで死ぬなら本望よ!」


 ダメだ、完全に意地になってる、この人。

 俺はこっそり審判に近づいて、耳打ちする。


「すいません、こっそりレベル下げといてくれません? 6くらいに。あとはこっちで誤魔化すんで。あ、星見さんもいいですか?」

「うむ。流石にアレはな」


 レディース用のレベル9だ。何の不正も無い。

 ふんす、と鼻息荒く強がる剛迫さんに近づいて、


「あー、剛迫。痛かったか?」

「イタクナイワヨ!」

「うん、痛かったんだな。でもな、大丈夫だ、すぐに慣れるよな、痛みなんて。それこそ一発食らっただけでも慣れるもんだよな。次からはきっと、あんまり痛くないんじゃないかな、うん」

「ええ、その通り! 耐えきってみせるわ!」


 よかった。意地っ張りで。

 かくしてダメージレベル設定も終わり、俺達は所定の位置に戻っていく。

 すると、さっきまで何もしようとしなかった不死川が影のように席を立ち、剛迫に近づいていく。


「どうしたの、ふーちゃん?」

「……」


 不死川は無言でダメージ布(俺命名)を剥がすと、剛迫の胸の先端に張り付け直した。

 丁寧に剥がれないように押し付け擦り付け、その出来栄えを確認するとうんうんと首肯する。


「ふーちゃん……これは?」

「……ファンサービス。これでこの大会で人気爆発間違いなし。ダメージ入ったらちゃんと喘いでね。あと股間にも張り付けるから」


 俺はすぐに布を剥がして、不死川の顔面に貼り付け直した。

 もがもがもが、と両腕をばたつかせるゲス野郎をよそに、俺は剛迫に向き直る。


「このクズ、大会に連れてきてよかったのか?」

「当然よ。すまいるピエロのメンバーですもの!」


 と言いつつもう片方の胸のダメージ布も剥がす剛迫。その慣れ切ったような態度に、普段の不死川のゲス行為の頻度が知れる。


「まあ、それはそれとして……いよいよ始まるわ。この間も言ったけど、相手はかなりの強敵よ」


 不死川の布を慎重に剥がしながら言う剛迫。

 見れば星見さんはすでに臨戦態勢。筋肉の鎧に覆われた体での仁王立ちは、まさに立ちはだかる岩山。


「だけど、みんなから分けてもらった力が、ギガンテスタワーには詰まっている。その自信が、今の私を支えているわ。……安心して。絶対に、勝つわ」


 剛迫は自分の右手を差し出した。

 俺にとっては数日間。こいつらにとっては数か月を懸けて作り上げた作品にて、あの巨壁に挑む。

 交わる剣戟は一合きり。振られる賽は6面一つ。

 そのプレッシャーを跳ね返すのは。

 今重なっている、4つの掌だ。


「じゃあ、行くわよ。すまいるピエロ、創立以来の大勝負」

「うん」

「ああ」

「……」


 舞台に上がる剛迫の背中。迎え撃つは、巨人の剛腕。

 着々と進むゲームの準備。会場中のモニターに映される、審判席のゲーム画面。


「では! カウントダウンと共に! 会場の皆さま、コールをお願いします!」

「3!」

「2!」

「1!」


 ――戦いが、始まる。


「レッツゴー! クソゲーバトル・エクストリーーーーーーーーーーーム!」

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