第33話

「しかし、物騒だぞ太平寺。お前、こんな時間に一人でよ。何してたんだ?」

「何って。ただの散歩。そこで偶然、知人がぼんやり途方に暮れているのですもの、それは声くらいかけるわ」

「途方に暮れてなんか、いねえよ」

「嘘おっしゃい。――クソゲーハウスに行ってたんでしょう? そこで疲れてしまったのよね」

「え? 何で俺がクソゲーハウスに行ってたと……?」

「だってわたくしも行ってたもの、クソゲーハウス」

「マジかよおい」


 太平寺、こんなキャラでクソゲー好きなのか。おいクソゲー、テメーの罪は既に無期懲役まで積みあがってるぞコラ。


「っていうか、意外だな。太平寺がゲームやってるってよ」

「趣味に貴賤は無いわ。確かにわたくしは、天体観測や家庭菜園でもしている方が似合っているかも知れないけど、それなりにやっているつもりよ? ゲームは」

「ほう、それなりに?」

「ええ。シューティングやパズルをはじめとして、月に20本はプレイしているわね」


 無論、クソゲー以外を選んでやってるつもりよ。

 俺の中の触手の如き食指が動きだす。


「ほ、ほう……。ってことは、こないだ発売された、アース・ブレーンもやったのか? 俺あれ、めっちゃ好きなんだが」

「ああ、それ、今わたくしが一番ハマってるゲームね」

「おお、良いセンスしてんな! あれ賛否両論だからな! ちょ、その辺のベンチ座って話そうぜ!」


 都合よくベンチが配置されている自販機が目に入り、俺は太平寺を引っ張り込んだ。

 これはかなり嬉しい誤算だ。クソゲー以外の話が――それも、かつての剛迫とのような高度なレベルの話が期待できるかもしれない。

 そして話を再開するが。


「あのゲームって、1990年代に発売されてた辺りのパズルゲームのリスペクトがずいぶん多いと個人的には思うのだけれど。貴方はどう感じたかしら?」

「お、分かるか太平寺も! やっぱアレ、その辺のリスペクト多いよな! 知ってる人はニヤリと出来る要素が多いんだよな! やっぱ気のせいじゃねえんだな!」


 これが大ヒット。

 強者が同じような強者のレベルを見ただけで見抜けるように、俺の中に何時の間にか備わっていた『観察眼』を使って分かる太平寺のレベルは――剛迫と同等レベル。

 そしてその期待を見事に裏切らないディープな知識。

 主観だけに頼らない客観的、しかし独自の見識を持つ新鮮な批評。

 嗚呼――楽しい!

 クソゲーハウスで負った傷がみるみる癒えていくのを感じる! これこそが人間に与えられるにふさわしいものだ! あんな文明の利器を利用して作られた無駄に洗練された無駄のない理想的な汚物共を眺め続ける極刑など、俺には合わないことを証明するのは、今のこの俺の気持ちだ。

 話が止まらない。もっと話をしていたい。

 そんな俺の欲望に任せて、結局太平寺とは――1時間以上も話し込んでいた。

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