第8話 月曜日
バスに揺られてに十分、俺はまりえが働いていたという花屋に向かっていた。
夢の中で、まりえと別れた後、自分の部屋のベッドの上で目覚めた俺は、わずかな期待を胸に、もう一度眠ってみた。
しかし、また夢を見ることが出来ても、そこにはまりえは出て来なく、そもそも自分の部屋さえ登場しなかった。
もう、まりえには会えないんだということを思い知らされて、現実でも泣いてしまった俺は、気を取り直して、出かけることにした。
行き先は、昨日会った友達から教えてもらったまりえの職場と、彼女のお墓だった。花屋で花を買い、それから墓参りに行こうと考えたからだった。
メモった住所頼りに歩き回り、やっとまりえの仕事場を発見できた。想像よりもずっと小さな店で、隣の建物の隙間に挟まるように建っている。しかし、店先だけでも様々な種類の花咲き乱れていて、ふんわりと花のいい香りが漂ってきた。
「いらっしゃいませー」
「ど、どうも……」
自動ドアをくぐった時に声を掛けられ、ちょっと挙動不審になりながらも鮮やかな花のあふれる店内を進む。
考えてみれば、花屋に入ったのは初めてだった。母の日のカーネーションやお見舞いの花はスーパーで買っていたし、残念ながら女性に花を送ったこともない。なんだか余計に緊張してきた。
買う花は事前に決めていたので、それを見つけたらすぐにレジに行こう。ここでまりえが働いていたのだから、他の店員に話を聞いたり、周りをよく見たりしてみたかったけれど、そこまでする余裕はなくなっていた。
探していた花はすぐに見つかった。丸くて、花びらのたくさんついた花、ダリア。花言葉は、可憐、威厳、そして感謝。
想像していたよりも色違いのダリアがたくさんあったので少し悩んだが、夢の中のテーブルクロスの色と同じ、オレンジのダリアにした。
それを一本取って、レジに運ぶ。本当は豪華に花束にしたかったが、それをしてしまえば予算オーバーになってしまう。心の中でまりえに、ごめんと何度も謝った。
「いらっしゃいませー」
「あ、これ、花束みたいにしてください」
「かしこまりましたー」
レジにいた黒のポニーテールで笑顔の眩しい店員は、俺のあいまいな説明でもどうしてほしいのか分かったようで、ダリアを持ってレジの奥の方の、作業台のような場所へ行った。
店員を待つ間、暇になった俺は、レジの周りにも小さな鉢植えなどが置いてあることに気づいた。サボテンや多肉植物などの中に、まだつぼみのままの鉢植えに見覚えのある名前が書かれたプレートが刺さっているのが見えた。
カンパニュラ。確か、花言葉は、熱心にやり遂げる。
「お待たせしましたー」
ピンクと透明のセロハンで茎を包まれたダリアを持ってレジに戻ってきた店員の前に、俺はつぼみのカンパニュラを置いた。
「すいません、これも一緒にお願いします」
何気ない夜 夢月七海 @yumetuki-773
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