第71話 暗転。

「女の子っていいよね」

「なに言ってるんです。先輩も女のコでしょう? 今日もこれからデートですか?」

「エッ!? なんで知ってるの!」

「さっきフードコート外のベンチで亀井戸さんを見かけましたから、一時間くらい前かな」


 来るの早すぎだ! ギリギリでいいのに!


「ほんとラブラブで羨ましいなあ、三年とは思えない」

「私は、釣り合えてないんだけどね……」

「じゃあ意地でも思い出さないとですね。わたしの色仕掛けもかわしたぐらいですから、亀井戸さん。相当のツワモノですよ。だから大事にしないとね! 先輩!」

「え、色仕掛け!? なにしたの――」

「うふふ! じゃあ先輩おつかれさまでーすぅ!」


 うわっ、ちょっと!

 ホームセンター裏のスタッフ専用口から出て、猫村さんは笑いながらバス停の方へ走っていく。


 ああもう、今日カメさんに問い詰めてやる。


 なんて思いながら、今にも降り出しそうな空を見上げ、お店の前で待っているだろう彼を迎えに行くべく私も歩き出す。


 やばいなあ。絶対これ一気に降ってくる。

 ゲリラ豪雨の予感。


 足早に駐車場を抜け、私は館内に続く角を曲がろうとした。

 すると。ふいに、トントンと。背後から肩を叩かれた。


 え。――なに。


 振り向こうと足を止めた。その時、


 私の腰部辺りになにか硬いものがぐっと押し付けられた。

 そして。

 一瞬にして全身を駆ける熱い衝撃。

 途端に私の意識は霞み、体から力が抜け。


 声も上げず。


 なにかを思う暇もなく。


 視界はバツンと暗転した。

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