第47話 きっかけ。

「ありがとう、ウサ。映画また行こうよ! 来週とか、空いてるから」


 ここのところ落ち込んでばかりいたけど、ウサが会いに来てくれて良かった。少し元気が出てきた。

 そこで時計を見ると、休憩時間は終了間近。


「ごめんそろそろだ……またこっちから連絡するから!」

「そういえばミツル、アタシも聞きたいんだけど」

「なに?」

「最近どう? 彼とは?」


 ん……?

 残りのアイスコーヒーを飲みほし、身支度を整えている私に投げかけられた問い。


「最近どうって?」


 なんのことかと振り向くと、ウサはオバちゃんみたいに手を顔の前で振った。


「やーね小憎らしい子。彼のことよ、いつも話してくれるじゃない。今日はノロケないから珍しいなーって」

「は?」

「え……」


 短い沈黙が生まれる。

 ピンク頭のウサの顔が青ざめていく。


「冗談っしょ?」

「冗談ってなにが」

「いや、いやいや、まさかあんた」

「なに、ウサ」

「マジなの」


 なにこの雰囲気。私が口をぽかんと開けているとウサは次にこう言って来た。


「あんたが色々忘れちゃってるってことは話しててもわかったけど……いや、でもだからって彼のことだけは忘れてないと思ってたのよ。だっていつもあんなに……」

「ウサ、なんの話……」

「カメちゃんのことよ! 本当に覚えてないの!?」


 私の反応を見て、ウサは額に手をやって俯いた。


「丸ごとごっそりってこと……! ああもう信じられない、あんたあの人にゾッコンだったじゃないの! カメさんカメさんって懐いて、ついてって! 三年目のくせにムカつくぐらいラブラブだったじゃないのよぉお!」


 そしてウサは、なにがどうなっているのか把握しきれていない私にまくし立てた。


「ウサ、落ち着いてよ」

「これが落ち着いてられないわよ! 彼は今どうしてるの、亀井戸君のことよ! 知ってるんでしょうこのこと!」

「え、亀井戸さん」


 そこまでで私の心境とその他諸々のことを悟ったらしい、彼は慌てて携帯を起動させてその画面を私の眼前に近づけた。


「ちょっとこれ見みなさい。流石のあんたでも、どういうことかわかるわよね」

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