第27話 どうしてここに。
私はその人を見て、すぐに顔をそらす。
泣いているところなんて誰にも見られたくないのに。どうしてよりにもよってこの人が……こんなところにいるの。
「なんで……いるんですか」
「今日はええと、休みだったから……涼しくなってきたしペットショップ行って癒されようかなーと思って駅出たら、ちょうど店員さんが公園の方に行くのが見えて、ほらもうこんなに暗いから、女性が一人で街灯も少ない公園なんてちょっと危ないなーって……」
「それで見てたっていうんですか」
なにそれ。ほんとにストーカーじゃん。
「……すいません」
しょぼんと謝る童顔眼鏡。
仕事が休みだっていうのだけは本当みたいだ。ワイシャツとネクタイではなく、今日は適当に着てきたみたいなTシャツに腕時計、デニムのパンツにスニーカー。スタンダード草食系ファッション。
「亀田……さんでしたっけ」
「亀井戸です」
早かった。
「あの……悪いんですけど一人にさせてくれませんかね」
鼻水が垂れてきそうで、もう一度鼻を啜ったら。
「泣いてるの……」
驚きの声を出して童顔眼鏡がまたこちらに近づいて来た。
ガサゴソと音を立てながら肩掛け鞄から何かを取り出す。
泣いてないです。いいから……行ってください――そう言おうとする前に、彼は最初の時と同じようにして私の前に膝を折り、ポケットティッシュを差し出した。
「良かったら、使ってください。あ、大丈夫ですちゃんと新品だから」
そう言って封の空いていない水に流せるティッシュを私の膝の上に置く。
なんだ……こいつ。
信じられなかった。今まで出会った男性からティッシュを貰うなんてこと、道端のティッシュ配りで貰う以外この時まで一度たりともなかった。
というか男性からティッシュが出てくるなんて思わなかった。ハンカチ、ティッシュは基本女性の持ち物で、男はティッシュを出さない生き物とさえ思っていたから。悔しいがちょっと感動して。
「…………女子力高いですね」
思わずそう言ってしまった。
するとその人は目を丸くして、すぐににっこりと笑った。
嬉しそうな顔。笑うともっと幼く見える。
「そう言われたの……何度目かな」
「は……?」
「ううん、なんでもないです」
好意で出してくれたのと、邪気のない笑顔を向けられて突き返すわけにもいかず、私はポケットティッシュを貰って零れた涙を拭いた。
童顔眼鏡はその間ずーっと立ったまま。どこかに行く様子もないし、私がそうしているのを見ている。もしやこちらからの言葉を待っているのだろうか。
「座れば……いいんじゃないですか」
「……いいんですか?」
そりゃ、別にこのベンチ私の所有物じゃないし。なんて捻くれたことを言ったら、その人は「お邪魔します」と小さく言ってベンチの隅の方に遠慮がちに腰掛けた。
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