第3話 風と少年

もうじき、秋か。






通学路の途中、




朽ちかけた鳥居の傍に




古びた縄が巻かれた




大きな神木がある。






木陰に入ると、




大きな根のひとつに




腰掛ける。






また、




一陣のそよ風が、




頬をかすめていった。






高校に入学してから




一年と五ヶ月。




二回目の二学期が始まった。






そんなことは




気にもとめないように、




いつの季節も




この神木の根に腰掛けると、




なぜかは知らないが




どこか懐かしい




風が語りかけてくる気がした。






ここでそうしていると、




一瞬目の前が真っ暗になり、




私を呼ぶ声が聞こえてくる。




「結衣ー! 僕に追いつけないと……」




男の子の声。




最後まで聞き取ろうとすると、




頭に鋭い痛みを感じた。






毎朝七時に家を出るのは、




ここにこうしてくるため。




そして、




男の子の台詞を




最後まで聞ける日がくるんじゃないか、って




そう思うから。






一呼吸して、




もう一度。






一陣の風、




暗転、




声。




「僕に追いつけないと……」




「友達続けてやんないぞ、結衣」






(!)




暗転した視界をこじ開けて




辛うじて目を開ける。






「どうした? 結衣。なにやってんだこんなとこで。」




きょとんとした顔がこちらをのぞき込んでいた。




「なんだ、お前か……」




唯一の腐れ縁。




幼なじみってヤツ。




啓太。




名字はありふれたヤツ。




「またお前呼ばわりかよ。もうちょっと可愛らしくしとけば……」




「なら、君には関係ない」




「はあ、これだからなあ、結衣は」




がっくりと肩を落としている。




「分かってるだろう? 私の事なんてとっくに」




「いーや。十五年以上経った今でも分からんよ」




「それを”分かっている”というんだよ」




得意の作り笑顔で、




言葉に嘘はなく、




啓太に言い放つ。




「お。ようやく出たな。その笑顔だけは相変わらず一品だな」




一瞬間を置く。




「やっぱりお前は分かってないよ。なんにも。啓太」






風はもう




止んでいた。

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