閑話 番頭さんの朝

 番頭の朝は早い。

 大体日の出前には目が覚めるので、軽くジョギング。

 それから朝餉の支度を終えて、まだ寝ている若旦那を叩き起こす。


「頼む……あと五分……」

「寝坊は許しません」


 食事を終えたら、若旦那を引き摺って松の湯へ。

 午前中はいつものように浴室の掃除からだ。

 銭湯は何と言っても清潔感が大事。

 ただあまり熱心過ぎてもいけない。実はこれまで何度か備品を破壊してしまったことがある。

 そこそこの力加減でカランやシャワーノズル、鏡などを磨いていくのがコツだ。


「今やってるから、もうちょい待って」

「先に巻き割りしてきます」


 それが終わったら焚き付けだ。

 最近では知り合いのドワーフから購入した薪を使っている。

 チェーンソーは使い方がよく分からないので、大抵は手刀だ。苛々している時は、肘と膝を使って折る。これがまた良いストレス解消になる。


「すまねえ。今日は俺が薪当番」

「あ、終わりました」


 仕上げは玄関の掃除。

 掃き掃除をしていると、大体、誰かしらと立ち話になる。

 人と話すのは苦手だ。若旦那はちゃんと相手の話を聞いて相槌を打っていれば仲良くなれると言っていたが、いつかは自分も上手い返事がでるようになりたい。

 そう思う番頭だった。


「……? 番頭さんどうかしたかい?」

「いえお昼にしましょう」


 そして一息ついてから開店だ。

 時間になったら暖簾をかける。

 古い古い魔法の暖簾は、番頭の故郷と繋がっていた。

 今日はどこから、どんな人が来るのだろう。

 そんなことを考えながら番頭台で、お客さんを待つのは楽しみの一つだ。

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