Wish

 《ユピテル》へ到着の日。

 イーヲはタラップの窓辺に腰を掛けて、次第に大きく見えてきた惑星の見慣れたガス雲の渦をながめていた。


 その大きな球体に付いた水滴のように小さく、彼らの定住のエウロパが白く輝いて見える。黒いベルベットの上に撒かれた宝石のように美しく輝く星々をながめながら、イーヲは《箱舟》で見たホログラムの森を思い返していた。


 この広い宇宙には《エウロパ》や《ガニメデ》以外にも人の住める環境は存在しているかもしれない。それにもかかわらず、人類が《アース》へ戻りたがる意味をイーヲは少しだけ知ったような気がした。


 背後のドアが開き、テラが入ってきた。

 もうすぐ警告のブザーがなり、各自座席に戻るよう館内放送が流れるはずだ。


 静かな微笑みをたたえて、テラがイーヲの傍らに歩いてくるとその肩に労わるように手を置いた。彼は彼女を振り向くでもなく、窓の外の惑星を見据えたまま呟く。


「ねぇ、テラ。僕は地球に帰りたい」



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Underground 縹 イチロ @furacoco

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