第四章 最強の二人、文化祭を堪能する
第六十話 プロローグ 最強の二人の文化祭、そしてさらなるトラブルの影
――アタル視点――
「ねぇ、あっくん……」
「言っちゃ駄目だ、由加理ちゃん」
「で、でも――」
「言ってしまったら、僕達地球人の尊厳が粉々に打ち砕かれるよ」
「も、もう無理!」
由加理ちゃんが机を叩いて叫んだ。
「何で異世界の住人の筈のアデルさんが、アタシ達の受験勉強を教えてくれてるの!? 家庭教師より遥かにわかりやすい教え方だよ!?」
そう、そうなんだよ。
何故か異世界出身である魔王アデルは、今僕の部屋で僕と由加理ちゃんに勉強を教えてくれている。
しかも滅茶苦茶わかりやすいんだって!
松本から帰ってきてから二日間、僕達はアデルさんに勉強を教わる事になった。
理由は、「人に勉強を教えるという事は、自分の知識に対して復習出来るから」との事。本当、この人は知力チートだよ。
由加理ちゃんもかなり勉強が捗っているようで、由加理ちゃんのお母さんも積極的に学んでこいと送り出した程なんだよねぇ。
由加理ちゃんの叫び声に、アデルさんは困ったような表情をして答えた。
「ん~。正直、こちらの世界の理に対するアプローチ方法なんですが、魔術と似ているんです」
「えっ、魔術と?」
えっ、何それ。僕も初耳なんですけど。
「魔術というのは、私達魔族に内包されている魔力によって理に干渉し、事象を引っ張ってきます。対してこちらの科学というものは、数式を用いて理に干渉しています。実はこの数式は魔術の詠唱に非常に似ているもので、魔力ではなく原子や分子の存在を利用しているんです」
ああ、なるほど。
何となくわかった。
魔術は魔力で力業的に事象を引き起こしていると、以前アデルさんから聞いた事がある。
でもまさか地球では、原子や分子が魔力の代わりを果たしているとは思わなかった。
アデルさん曰く、この数式は限りなく正解に近いようで、どうやって魔力なしでここまでの完成度を誇るのかが全く以て意味不明だという。
確かによく考えてみると、数字ってやけに正確だよなぁ。
身近過ぎてわからなかったけど、少し考えたらおかしい位なんだよね。
僕はその程度の感想だったが、由加理ちゃんはとても興味を示したようで、瞳が輝いている。
「地球人にとっては火を起こす原理は当たり前なのかもしれません。ですが、私のような異世界人の視点から見たら、その原理こそが魔術の行程と全く代わりがありません。だから私も科学の本を読み漁りました」
この知力チート、一度読んだ本は百年程は忘れないという。
まさに歩く図書館って言ってもおかしくないね。
ああ、その頭脳、僕に貸してよ!
あっ、すっかり受験勉強で忘れていたけど、明日は由加理ちゃんの学校の文化祭じゃん!
由加理ちゃんのメイド姿……。
あぁ、煩悩が僕の頭を支配していくぅ。
いやいや、まだ煩悩に支配されちゃ駄目だ!
明日は何時からか聞かないと。
「由加理ちゃん、明日は確か文化祭だよね?」
「あっ、うん。そうだよ」
「ブンカサイ?」
アデルさんが聞き慣れない単語に首を傾げる。
本当にこの人、たまに女性みたいな仕草をする。
ただでさえ中性的な美人な容姿をしているから、こんな仕草をされるとたまにドキリとさせられる。
そんな僕の心情は知らず、由加理ちゃんがアデルさんに対して答える。
「アデルさん、文化祭っていうのは、年に一回学校が一般に解放するの。そこで生徒達が様々なお店だったり催しをするの」
「成程」
「簡単に言っちゃえば、学校主催のお祭りだね」
「お祭りですか!」
おおぅ、やけに祭りで食いついたな、魔王様。
「本で読みましたよ! お祭りは賑やかで色々な屋台があり、そして甘酸っぱい恋が盛り上がる催しだと!!」
おいおい、アデルさん。何の本を読んだんだよ。
本を提供したのは由加理ちゃんだから、犯人は僕の彼女さんだよね?
由加理ちゃんに視線をやると、明後日の方向を向いていた。
うん、確定だね。
「由加理ちゃん、アデルさんに何を渡した?」
「えっと。恋愛の勉強をしたいからって言うから、少女漫画を十冊程……」
少女漫画を読む魔王様!
絵面としては面白いけど、非常に面白すぎるけれども!!
恋愛初心者のアデルさんに、そもそも少女漫画を読ませていいんだろうか?
そういう僕も恋愛初心者だけど、僕は由加理ちゃんという可愛い彼女がいるし、大きく一歩リードしてるもんね!
……何で僕はしょうもない事で張り合ってるんだ。
すると、アデルさんがスマホを取り出した。
「一般参加も大丈夫という事は、夢可さんを誘ってもいいって事ですよね!?」
「うん、大丈夫だよ」
「なら、誘います!」
アデルさんが魔力を込めて身体強化をし、目に見えない速さで文字を入力した。
まぁ僕は見えるんだけど。
「ねぇ、あっくん。アデルさんの指が消えてるんだけど……」
「うん、超高速で文字入力してるね」
「見えるんだ……」
一般人である由加理ちゃんには、この速さは目視出来ないみたいだね。
入力時間は約三秒。
送信まで済ませたようだ。
達成感に満ち溢れた表情をしている。
そこまでしてまで惚れ込んでるんだなぁ。
ちょっと前まで恋愛感情なんてわからないとか言っていたのに、恋は人間を変えるもんだねぇ。
あっ、人間じゃなかった、魔族だった。
なんて事を思っていたら、アデルさんのスマホが着信の音を鳴らす。
それを確認すると、満面の笑みになるアデルさん。
「ちょうどバイトが休みで、一緒に来るそうです!」
はやっ!!
返事来るのはやっ!?
なかなかそんな早く返事しないでしょ、普通。
ん~、絶対両思いだぞ、これ。
由加理ちゃんにも確認したけど、「間違いないね!」と親指を立てていた。
「さて、私達もそろそろリューンハルトに帰らなくてはいけませんし、勉強を追い上げましょう!」
俄然やる気を出しているアデルさん。
そうだね、明日は由加理ちゃんのメイド姿が見れる!
それだけで僕は、この受験勉強を乗りきれる気がする!!
よぅし、僕頑張っちゃうぞ!
――???視点――
「阿久津クン、ついに明日っすね!」
「……ああ、俺はこの日を待ち望んでいた」
明日はとある高校の文化祭。
俺はその高校を半年前、退学させられた。
理由は、安藤 由加理を俺の物にしてやろうと思ったら、警察に通報されちまったからだ。
学校は退学、そして経歴にも傷が付いてしまった。
別にそんな事はどうでもいいんだ。
俺はあの女がどうしても欲しい。
だからこの文化祭で、力でねじ伏せて、あいつを手中に収めてやるんだ。
その為に俺は、チームを作った。
総勢五十人。
全員が安藤 由加理の容姿に惚れ込んでいる奴等だ。
もし協力してくれたら、一日だけ好きなだけ
皆がやる気十分だ。
あの女は非常に優しく甘い。
文化祭を壊されるような事があったら、喜んで自分の身を捧げるだろうよ。
別に俺は愛は求めていない。
ただ、あいつを手に入れたいだけなんだ。
「楽しみで仕方ねぇ、夢にまで見た安藤さんをヤレるんだ!」
「あっ、そういえば最近、安藤さんに彼氏出来たらしいっす」
『はっ!?』
なん……だ……と?
安藤 由加理は、すでに誰かの物になっていやがった……?
くそっ、何処の馬の骨か知らねぇけど、俺に許可なしに勝手に彼氏になりやがって。
予定変更だ。
「お前ら、その彼氏って奴を目の前でいたぶるぞ。そうしたら、きっと服従してくれるだろうし、彼氏にも嫌われるだろう」
『おうっ!!』
怒気が溢れた返事が、大気を震わせている。
安藤 由加理の彼氏、首を洗って待っていろ。
必ず、死んだ方がマシだと思える地獄を見せてやる。
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