第三十六話 最強の魔王、スマホをねだる


 ――アタル視点――


 はぁぁぁぁ。

 もうちょっとで実家に着くなぁ。

 本当にどうしようか、もう由加理ちゃんに会いたい気持ちだ……。

 でもさ、アデルさんが待ってるし、母さんがご飯を作って待ってるみたいなんだよなぁ。

 でもでも、由加理ちゃんと離れて正解だったな。

 あのままだったら、僕はきっと、彼女の体を求めたと思う。

 多分由加理ちゃんは受け入れてくれると思うけど、早すぎだって思っちゃったんだ。


 僕達は幼馴染みという事もあって、お互いを知っている。

 そこで二年間離ればなれになってしまって、久々に会ったら幼馴染みの関係ではいれなくなっちゃった訳で。

 本当にトントン拍子で関係が加速した。

 だからこれ以上加速したら、長く続かないのかもしれない。

 そう思っちゃったんだ。

 だからね、この由加理ちゃんが好きっていう気持ちをもっと大きくしたいって思った。

 今でもそうなんだけど、さらに彼女以外の女性はありえないって思いたい。

 そう考えると、思い止まって正解だったなぁ。


 それでもさぁ……。


「由加理ちゃんの唇柔らかかったなぁ……。それに、すごく可愛かったなぁ……」


 未だに唇に残る感触が、後ろ髪を引いていた。

 もうやってやる!

 さっさと向こうを平和にして、こっちに帰ってくる!

 そして由加理ちゃんと大学生生活を楽しむんだ!!


 もう百メートルしたら家に到着する。

 ぼーっとしながら歩いていると、同じく僕の実家に向かっているアデルさんを見つけた。

 あれ、アデルさんも何かぼーっとしてる?

 何で?


「おーっす、アデルさん」


「アタルさん……、楽しめました?」


 何というか、心ここに在らず?

 どうしたんだ?


「う、うん。楽しんできたけど、アデルさんはどうしたのさ?」


「それは、ご自宅で話します。……はぁ」


 ため息を付いたよ、魔王様。

 別行動を取った時はあんなに引く位テンション高かったのに、何で今は急降下してるんだろう。

 とりあえず上の空なアデルさんの背中を押して、僕の実家に入った。









 久々の母さんのご飯は美味しかった。

 リューンハルトのも美味しいんだけど、やっぱり僕は日本人だ。和食の方が好きだったりする。

 しっかし、今僕とアデルさんはご飯を食べて、お風呂も入って(別々に入ったよ!?)、僕の部屋で就寝する準備をしている。

 リューンハルトに召喚される前に来ていたパジャマは、体躯が良くなった僕には着れなかったので、仕方なく私服のままだったりする。

 ……あのまま着ていたら、何処ぞの世紀末覇者みたいにビリビリって破るところだったよ。


 さて、まだアデルさんが絶賛上の空中だ。

 何があったんだろうか?

 今までこんなアデルさん、見た事ないよ?


「ねぇねぇアデルさん、本当にどうしちゃったのさ?」


「……アタルさん、今まですみませんでした!」


 いきなり謝られた!?

 何、何なのさ?

 アデルさん、僕に謝るような事でもしたの?


「今まで私は、散々アタルさんをバカップルだの、スケベだの罵って来ました……」


 あぁ、うん。確かに罵ってたねぇ。

 まぁ大体僕が悪いんだけど。

 由加理ちゃんと付き合えて舞い上がっていたし、胸の柔らかい感触が忘れられなくて欲求不満になったしね。

 それを赤裸々に語ったら、まぁアデルさんは罵ってくる。

 冗談で言っているのはわかっているから、気にしてないんだけどね。


「別にそれはいいよ。でも、何で謝るの?」


「……それは、私も人の事が言えないからです」


 ん?

 どういう事?


 ……え~っと、つまり。

 まさか、アデルさん……。


「えっ、童貞捨てたの!?」


「違います!!」


 何だ、違ったのか。

 僕より先に童貞捨てたのかと思った。

 よかったよ、取り残されなくて。

 じゃあ何に対して謝ってるんだろう?


「実は、私もですね……」


「うん」


「胸の素晴らしさに気付いてしまったスケベでした! 今まで罵って申し訳ありませんでした!!」


「お、おぅ」


 何だ、そういう事か。

 うんうん、ついに親友もおっぱいの良さに気が付いたか!

 あのふにふにした素敵な感触、いいよねぇ……。

 由加理ちゃんのおっぱいが胸に当たる度に、幸せな気持ちになる。

 この良さにやっと気付いてくれた訳だ!


「ふふふ、我が親友にして、我が同志よ!!」


「は、はぁ」


 とりあえずひしっと抱き合う僕達。

 でも、そういう感触を味わえたっていう相手が出来たって事か……。

 なるほどねぇ、何となく予想付いたけど、ここは全てゲロってもらいましょうかね。

 げへへへへへへへへへ!

 









 ――アデル視点――


 私はアタルさんに、夢可さんと出会った経緯を話した。

 そして、私が彼女に恋をしたのも話した。


「へぇぇ、へぇ~~~~~~~~。ついに魔王様も恋を知っちゃったか、へぇぇぇぇぇぇ!!」


 そしてこのニヤニヤ顔である。

 無性に殴りたい。


「そこでご相談なのですが、私もスマホがほしいです!」


「それは無理」


 バッサリ斬り捨てられた。

 何故だと理由を聞いたら、スマホを持つには会社と契約をしなくてはいけないようなのだ。

 その契約を結ぶには、身分を証明できる書類が必要なのだとか。

 これが私がスマホを持てない理由だ。

 この世界において、私は存在していないのである。

 身分を証明できないのだ、私は。

 何という、何という高いハードルが、私の恋路にはそびえ立っているのだろうか……。


「うぅ……。スマホを手に入れたら、異世界間でも通信出来るようになるアーティファクトを作ろうと思っていたのに……」


 私は夢可さんに恋をしたと自覚した時から、スマホを得て異世界間でも自由に連絡取れるアーティファクトの構想を練っていた。

 そしてアタルさんの実家に着いた時、魔術学的理論は完成して後は実行に移すだけだった。

 今回の旅で魔術は使わないと誓ったが、この程度ならノーカウントだろう。


「ちょっとそこの知能チート魔王、今聞き捨てならない事言ったね?」


「え? 異世界間でも通信が出来るアーティファクトの事ですか?」


「それだよそれ! 出来るの?」


「えぇ、理論上は出来ますね」


「よっし、恋愛の大先輩である僕が、アデルさんにスマホをプレゼントしちゃうぞ!」


 アタルさんが掌を返したような感じで言った。


「えっ、私はスマホ持てないのでは?」


「ん~、まぁ本当はやっちゃいけないんだけど、僕が責任もってお金払うから問題ないかな?」


 アタルさん曰く、この行為は《名義貸し》と言って、本人契約だが他人に貸し与える行為なのだとか。

 つまり今回はアタルさん名義で契約して、それを私にくれるというのだ。

 本来日本の法律上あまりよろしくはないのだが、アタルさんは今大金を持っている。

 そこの口座から引き落とすようにするとの事。

 だが彼もこの世界では未成年。親の同意が必要という訳だ。


 多分アタルさんも、由加理さんと連絡を取りたいのだろう。

 とっても必死になっている。

 私と彼の利害はまさしく、一致したのだ。


「じゃあ僕は今から両親に頼み込んでみる! アデルさんは申し訳ないけど、今からアーティファクトの作成をお願い!」


「わかりました。多分朝までには出来ると思います」


「ごめんね、寝られなくて」


「いえ、これもお互いの恋の為です。頑張ります!」


「僕も何とかして両親を説得してみる!! 頑張ろう!!」


 お互いの拳をぶつけ合う。

 すると、軽めにやったのだが衝撃波が発生してしまい、家自体が大きく振動してしまった。

 この後、地震と勘違いしたアタルさんのご両親に私も含めて叱られたのだが、何とかアタルさんのお母さんが明日の午前中にご同行して契約していただけるようになった。

 ふむ、後は私が頑張る番だな!

 待っていてくださいね、夢可さん!

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