第二十九話 最強の魔王による、洋服コーディネイト
――夢可視点――
ここは表参道にある《ZAP×ZAP》っていう店だな。
確かバイトの後輩の子が、ここの店員兼モデルが大好きで、毎週服を見に行くという建前でその人を見ているって言ってたっけ。
その店員はちょうどいて、たくさんの女の子から服のアドバイスを聞かれていた。
見た目はチャラいけど、結構的確にアドバイスしていて、さすがはモデルって私も感心したよ。
で、何で私がここにいるかって言うと、アデルが私に服を買ってくれるって聞かないからだ。
何度も断ったが、あいつの意思は揺るがなかったから私が根負けしちゃったって訳。
どうやらアデルとモデル店員は知り合いのようで、二人で私の服を選び始めたんだ。
「私は、彼女にはこの服が似合うと思うのですが……」
「いやいやお兄さん、あの子スタイルいいから、これ位大胆にいってもいいと思うぜ?」
おいチャラ男、私に何を着せようとしているんだ?
「でも、私は彼女にはこういう路線がいいと感じていますよ?」
「確かに悪くないよ? でも無難すぎね?」
「……無難ですか?」
「無難だなぁ……」
「そうですかぁ……」
こんな感じで私の服を、私に選ばせないで勝手に選んでいる。
一応さ、私にも服の好みがあるんだしさ、選ばせてくれよって言った。
でも、「私が買うのです、選ばせてください」と押し切られた。
いやさ、あんなイケメンに顔近づかれて言われたら、流石に私も緊張して言い返せないよ。一応女の子だしさ。
「なら、私と店員さんが一番いいと思ったものを試着してもらって、彼女に決めてもらいましょう!」
「おっ、いいね! ちょっと俺も腕が鳴るぜ?」
あぁ、何か大事になってきている。
もう何でもいいから早く決めてほしい。
濡れた服が中途半端に乾いてきていて、寒いんだけど……。
でもそれ以上に、何故かアデルを意識し始めた。
何でだろうか、私の服を見られるのが恥ずかしいというか何と言うか……。
似た者同士として認識したからかな?
よくわからない……。
――アデル視点――
私と、この店員が決めた服を渡し、試着してもらう事にした。
一ヶ月前、このお店で買い物した直後から、試着を許可するようにしたようだ。
……私達の時はだめだったものをさせてもらった訳だ。
会計時に改めてお礼を言おう。
「しっかし、お兄さん。日本語ペラペラっすね! 前来た時は喋ってなかったのに」
「ええ。最近喋れるようになりました。結構苦労しましたよ?」
「……それ絶対最近じゃないっしょ」
本当に最近なんだがなぁ。
血ヘドを吐くくらい頑張ったのだ。
さて、今夢可さんに試着をしてもらっている。
先攻は店員さんのからだ。
さっきちらっと見たが、大胆に行くとか言っていたが割かし大人しめだった気がする。
この店員、確かモデルという、服のコーディネイトの良さをさらに際立たせる職業の人間だとか。
つまり彼は、この道のプロだ。
なかなか分の悪い勝負だが、嫌いじゃない。
「えっと、着替え終わったよ」
試着室から夢可さんの声が聞こえた。
ゆっくりと試着室のカーテンが開かれ、彼女の姿が披露された。
その姿に私は感嘆の声を漏らし、女性客は素敵と絶賛する声を上げる。そしてガッツポーズを決める店員さん。
もう流石の一言だ。
金髪の長い髪を後頭部で纏め上げ、うなじが見えるような髪型になっている。
そして首元(ネックラインと言うらしい)が大きく開いた縦のストライプシャツに、くるぶしまで足のラインがわかる位ピッチリしている濃いグレーのパンツ。そして白いラインがアクセントとなっている黒の靴。
最後のお洒落さを演出するように、首には白と黒の斑模様のスカーフが巻かれている。
夢可さんのスタイルは、確かに素晴らしいと言える。
まぁ評価基準が由加理さんなのだが、十分美しいと言える由加理さんに負けず劣らずに脚線美が見事だし、たまに覗く豊かな胸の谷間が色香を放っている。
……ちょっと待て。
この魔族の私が、色香を認識した?
……どういう事だ?
まぁさておいて、とても似合っている。
美しい。
「わ、私はこういう服を着た事ないんだが、そのぉ似合っているか?」
夢可さんが恥ずかしそうに訪ねてくる。
「とっても素敵ですよ、夢可さん」
「そ、そっか……ありがとうな」
下を向いて頬を人差し指で掻いている夢可さん。
少し可愛いと思ってしまった。
……可愛いと認識した?
何だ、どうなっているんだ、今日の私は。
「ふっふっふ、どうだいお兄さん、俺のコーデは!」
こーで?
……あぁ、コーディネイトの略か。
日本人は何でも略すのが好きって言っていたな、アタルさんが。
「流石プロと言えますね。彼女の魅力が際立っています」
「だろう? さぁ、次はお兄さんのを見せてもらおうか」
「ええ。では夢可さん、こちらにお着替えをお願いします」
「あ、あぁ。わかったよ」
夢可さんは試着室のカーテンを閉めて、着替え始める。
さてさて、私のコーディネイトはどうなるだろう?
日本語を勉強がてら、アタルさんから文化についても質問しまくった。
故に、今の私は一般の日本人と同じ位の知識や文化、常識を備えたと自負している。
だからきっと、大丈夫だ!
彼女が着替え終わるまで、私は店員さんと話をしていた。
モデルという仕事がやっぱり抽象的にしか把握していなかったから、実際彼が載っている雑誌を拝見した。
もう、すごかった。
たった一枚で、「私もこの服がほしいぞ」と思わせる程の魅力があったのだ。
もちろん彼が容姿に優れているというのもあるのだが、服が彼の魅力をさらに底上げしている。
それに違和感もなく、純粋に自然体なのだ。
このように感じるのは、しっかりと着こなせているし、自身が似合う服を理解しているからこそ出来る事だ。
私は感動して、彼を褒めちぎったら何か向こうも感動して泣き始めた。
「う、嬉しいっす! こんなに俺の仕事が認められるの、本当心から嬉しいっす……!!」
別に泣かすつもりはなかったのだが……。
すると、夢可さんが「着替え終わったぞ」と話しかけてきた。
試着室のカーテンはまたゆっくり開けられ、私の選んだ服を身に付けた彼女が姿を現した。
……。
なにも、言えなかった。
「あ、あの。何で黙ってるの?」
不安そうに見つめる彼女。
別に似合っていなかったから黙っている訳ではない。
純粋に、声が出ないほど素晴らしかった。
私が選んだ服は、シンプルな服だった。
アイスブルーのVネックニットという、シャツよりふわっとした生地を使ったものを使っている。
だからと言って厚くなっている訳ではなく、しっかり体のラインがわかるようになっている。
そして柄がない白地の膝丈のスカートなのだが、スカートの裾にレースが装飾されているのがワンポイントだ。
最後に靴は、白のスニーカーだ。
彼女の刺々しい雰囲気は、多分着せ替え人形にされているせいか今はない。
このシンプルな服装を着こなしている。
美しかった。
「……とても、素敵ですよ」
「ほ、本当か?」
「ええ、素敵過ぎて黙ってしまいました」
「……そっか」
彼女は一瞬ほっとしたような表情を見せた。
「さぁさぁ彼女! どっちの服がよかったかな?」
店員さんが夢可さんに尋ねてきた。
まぁ私自身、この勝敗は正直どっちでもいい。
両方とも、間違いなく素敵だからだ。
しかし、彼女は即答した。
「アデルの服がいい」
「うわっ、負けたか! 理由聞いてもいい?」
「理由は、……何となくアデルが選んだから」
「……彼氏贔屓の部分で負けたか。そりゃ勝てんわ」
「ばっ、彼氏じゃねぇ!」
店員さんと夢可さんはそんな会話をしているが、私はあまりその会話に集中できていなかった。
私が思っていた以上に、私のコーディネイトを選んでくれたのが嬉しかったのだ。
でも、何故嬉しく感じたのだ?
さっき知り合ったばかりだが、友達になれたからなのだろうか。
故に情が移っているのかもしれないな。
由加理さん以外の雌を見ても何も思わないし、恐らくそういう理由だからだろうな。
「アデル」
不意に彼女から名前を呼ばれ振り向いてみると、夢可さんの柔らかい笑顔がそこにあった。
「服、ありがとうな」
胸が、暖かい。
動悸が激しい。
彼女の存在が、私の中で少し大きくなった。
「……いえいえ、どういたしまして」
私は精一杯おどけて言った。
何故だろう、そういった態度を取るのも一苦労だった。
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