第20話 輝く瞳

冷たい石が積み上げられた壁。


表面はうっすらと湿り、カビなのか苔なのか……


そんなものが生えてしまっているようで、ひどく空気は悪い。


恐らく地下なのだろう。


明かりは鉄格子の向こうにある松明だけ。


しかし、この無駄に広い空間をそんな物だけでは照らしきることなどできるはずもなく、辺りは暗闇に包まれていた。


そんな中で、柔らかな光を放つ場所が一つ。



魔法陣だ。



魔法陣から降り注ぐ光が、横たわるものに優しく降り注ぐと、それはモゾモゾと動く。


横たわっていたものは、どうやら人だったようだ。



「これで……なんとか……」


穏やかな光によって、時たま見える横たわっていた人物の表情が、苦悶に歪んでいた物から、徐々に穏やかな物へと変化していく。


「すまない……」


そうつぶやくと、そのままゆっくりと目をつぶってしまった。


規則正しい呼吸音。どうやら寝てしまったようだ。



「もっと効率よくできるはずなんだ……じゃないと……」



魔法陣を展開していた人物がそうつぶやく。


声からして青年のようだ。


青年は立ち上がるとヨロヨロとふらつきながら鉄格子の辺りを目掛けて歩き出す。


足元に注意しながら歩いているようで、見れば先ほどの人物と同じように、何人もの人物が横たわっているようだった。



やっとのことでたどり着いた青年は、鉄格子を両手でつかみ、通路の奥へと視線を送る。


薄暗い通路を照らす松明が、青年の顔を照らす。


だが、その顔は……とても青年と呼べるものではなかった。


酷くやせこけ、肌もボロボロ……


乾ききった唇は何度も割れたのだろう……様々な箇所に血が固まった後が残っている。


そして何より……青年と呼ぶことに抵抗を感じさせるのが、その頭髪だ。


白髪しらが……白髪はくはつではなく白髪しらが……


艶やコシ……そんなものを一切感じることのできないその白髪のせいで、青年は実年齢から何倍もの年月を生きた老人のような状態になってしまっていた。


そんな中でも唯一……たった一か所のみ、青年と呼ぶに相応しく輝く場所があった。


瞳……そう……その瞳に宿す輝きからは”青年”としての力強さが溢れていた。




「兵士がいない……また誰か……」



青年は眉間にシワを寄せる。


すると、通路の奥が騒がしくなってきた。



「ったく、くたばっちまえば俺たちの仕事じゃなくなるのによ!」


「まったくだ! こんな老いぼれ戻したってろくに動きやしないんだからな!!」


「そうは言うが、人手が足りなんだから仕方ないだろ……最悪俺達までかり出されるぞ」


「うへぇ~そいつは勘弁だな」


「さっさと追加を連れてきてもらいたいもんだ」


どうやら兵士が何者かをここに運んできたらしい。



「おい! 下がれ!!!」



兵士の一人が鉄格子に張り付いていた青年を見つけ、手にしていた槍で鉄格子を殴り、


それを受けた、青年はヨロヨロと後ろに下がる。


その様子を満足そうに確認した兵士が、施錠を解き、連れてきた人物を乱暴に中へと投げ込んだ。



「ほら! 早くしないと死んじまうぞ~」


「老いぼれは風前の灯火だ」



兵士達は面白そうに青年に言い放つと、再び施錠する。


悔しそうな顔を浮かべながら、青年は倒れている人物に近寄ると、顔色を変えた。



「村長!?」


しかし、青年に村長と呼ばれた人物は、呼びかけには答えない。


返ってくるのは、弱々しい呼吸音だけだった。


暗い中で何とか状態を診ようと場所を移動し、衣服をはぎ取ると、まるで血管全てが皮膚の前面に浮き出てきたかのような跡が広範囲に見える。


「またか……」


どうやら青年はこの状態に心当たりがあるようだ。


「前に救えなかった人は……最後に電撃の魔法に打たれたって言ってた……臓器なかを通ってないことを願うしかない……」


青年はそうつぶやくと、再び魔法陣を展開させる。


先ほど展開した物よりも、2つ数が多いようだ。


青年の顔が苦悶に歪む。


こめかみを伝う汗が、ポタポタと石畳の上に落ち、水たまりを作っていく。


青年が己の何かを削って、魔法を展開しているのは明白だ。



「お~お~いつ見ても立派にやるもんだな」


「お前もやってもらったらどうだ?」


「嫌なこった。こんな我流でやってる回復魔法なんて、後で何があるかわかったもんじゃない」


兵士達は青年が治癒する様子をまるでショーでも見ているかのように、冷やかす。


しかし、そんな声を青年は無視し、懸命に治癒をつづけた。



「クッ……どう……だ? 村長??」



恐らく青年の精一杯……完治したと思ったから治癒を止めたのではなく、これ以上治癒を維持しきれないため魔法陣が消えうせた……そう見受けられた。


実際、青年の意識は今にも消え入りそうである。


しかし、村長と呼ばれたその者の行く末を何とか見ようと、薄れゆく意識に全力で抵抗しているようだ。


「お……おお……その声……ラケルなのか? 久しいな……」


村長の目がゆっくりと開き、青年を捉える。


「ラケル……なのか? お前……いったい何が……こんな……」


村長は青年をみてかなりうろたえている。


だが、一命はとりとめたようだ。


「よかった……」


村長の回復に喜んだ青年の意識が完全に途切れにかかる。



「プッ……アッハッハ!! こいつあそこからでも本当に治しやがった!!!」


「バカだよな~。あのまま死なせてやった方が楽になれたもんを」


「治っちまったら、またあっちに連れ戻されるってのに」



そんな中で、青年の耳には兵士のこの言葉がしっかりと入ってきた。




僕は……何のために……


でも……救えるかもしれないのに……そのままなんて……嫌なんだ


でも……救えても……また連れ戻されるのなら……


でも……




誰か――――



青年の意識は今度こそ完全に途絶えた。



―――――――――――――――――――――

あとがき


集計方法とかも違う可能性があるので、合わせていい物なのか悩むところではありますが、

カクヨム+小説家になろうのPV数が50万を突破いたしました!


びっくりです。

こんなにも沢山この小説にアクセスしていただき、本当にうれしいです。


より面白い小説になっていくように努力することが、読者の皆様への恩返しだと考えています。

末永くご愛読いただければ幸いです。

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