第380話 招待……?③

 その状況に、即座に反応したのは三人だった。


 今代の《七星》の一人であるアルフレッド=ハウル。

 元 《九妖星》の一人、リノ=エヴァンシード。

 そして、コウタ=ヒラサカの三人だ。


 ここいるメンバーの中でも、別格に戦闘力が高い三人。

 ただ、その中でも動いたのは、コウタだけだった。

 この行動の差は、アルフレッドとリノが出遅れたというより、コウタが何も考えずに飛び出したためだ。


 ――この事態が何なのか。

 二人と違って、それを考える前に、彼女の元へと跳んでいた。


「アヤちゃん!」


 彼女の名を呼び、その腕を掴む。

 そして足元の闇が広がる前に、アヤメを抱き寄せて後方に跳んだ。


「アヤちゃん! 大丈夫!?」


 しっかりと。

 アヤメを両腕で抱きしめて、彼女の無事を確認する。

 一方、アヤメは、


「……コウタ君は、やっぱり優しいのです」


 彼の腕の中で、アヤメは幸せそうに目を細めた。

 ――が、すぐに申し訳なさそうな顔をして。


「けど、ごめんなさいのです。後で叱ってください」


「え? 叱るって――」


 と、コウタが眉をひそめた瞬間だった。

 ――フオン。

 先程までアヤメの立っていた場所にあった闇。

 それが、再びアヤメの足元で広がったのだ。

 それは三セージルほど広がって、


「……ン?」


 偶然にも、サザンⅩの足元まで届いた。

 そしてその闇は、コウタとアヤメ、ついでにサザンⅩを呑み込み始めた。

 闇はまるで蟻地獄のようであって、中心にいるコウタたちは早く沈み、端にいたサザンⅩが「……ン? ン?」と困惑しながら、中央に引き寄せられていた。


「コ、コウタ!?」


 この事態に、愕然とした声を上げたのは、メルティアだった。


「――チイ! 犀娘! やってくれる!」


 リノがすぐさま動き出す。アルフレッドも「コウタ!」と叫んでそれに続き、


「コウタさま!」「おい、コウタ!」


 一歩遅れて、リーゼとジェイクも立ち上がる。

 四人は、コウタの元に駆け寄ろうとするが、


「ダ、ダメだよ! みんな!」


 すでに、腰まで闇に沈んだコウタが止めた。


「状況が分からない! 近づいちゃダメだ!」


 次いで、コウタは叫ぶ。


「ジェイク! アルフ! メルを頼む――」


 そう告げる途中で、コウタとアヤメは完全に闇の中に消えた。


「コウタ!?」


 メルティアが青ざめる。

 と、サザンⅩが闇の中央に来た。

 その頃には、闇はサザンⅩの胴体より少し大きいぐらいの幅しかなかった。

 後を追おうにも、幅が狭すぎる。


「サザンⅩよ!」


 リノが命じた。


「コウタの後を追え!」


「……ム! リョウカイシタ!」


 ゆっくりと沈むサザンⅩが答える。

 が、ふと思い出したように、


「……ムム! コレハ! コノ、シチュエーションハ! アニジャヨ!」


 零号に声を掛けた。


「……シャシンヲ! シャシンヲ、トッテクレ!」


 そう告げた。零号は何かを察したように、「……ウム! 任セヨ!」と答える。

 そうして、皆が唖然とする中、サザンⅩはゆっくりと沈んでいき、


「……アイル、ビー、バッ――」


 と、言いかけたところで、頭まで沈んだ。

 唯一、突き出た腕で親指を立てて、サザンⅩは消えていった。

 その瞬間は、零号によって見事に写真に収められている。


「――コウタッ!?」


 メルティアが、悲壮な声を張り上げる。

 リーゼたちは、ただただ唖然としていた。

 アンジェリカとフランは、事態が全く理解できずに目を丸くしていた。

 けれど、そこで一人だけ動く者がいた。


「……ん。大丈夫。まだ行ける」


 そう呟いて、スカートを両手で掴み、今にも閉じそうな闇の上に大きく跳躍する。

 誰よりも小柄な幼女。アイリである。

 全員が言葉を失っている中、小柄な幼女は姿勢を真っ直ぐに、勢いをつけて、まるで水面にでも飛び込むように、闇の中へと両足を差し込んだ。

 そして、そのまま、本当に着水するかのように、ちゃぽんと消える。

 闇が完全に閉じたのは、その数秒後だった。

 数瞬の沈黙。


「「――アイリ!?」」


 メルティアとリーゼが、仰天の声を上げる。

 どうやら、アイリだけは、まだ後を追えると判断したようだ。


「あの状況で、コウタの傍に行くことを即断しおったか。やるのう。ロリ神め」


 リノは、腕を組んで唸っていた。


「いやいやいや!」


 ジェイクが闇の消えた場所に来て、手で触れた。


「何だったんだよ! 今のは!」


 ジェイクは、リノに目をやった。

 裏社会に生きた彼女なら、何かを知っていると思ったのだ。

 しかし、リノはかぶりを振るだけだった。


「くそ。リノ嬢ちゃんでも知らねえのか。なら」


 ジェイクは、アンジェリカとフランに目をやった。

 先程の闇は、明らかにアヤメに関係するモノに見えた。

 アヤメの友人である二人なら、何か知っているかもしれないと思ったのだが、


「え、あ、その……」


 二人は、ブンブンとかぶりを振っていた。

 彼女たちも、何も知らないようだ。


「コ、コウタさまは、アイリは一体どこに……」


 血の気の引いた顔で、リーゼが呟く。


「まあ、コウタたちに身の危険はなかろう。どうやら、あの闇は犀娘が仕掛けたようじゃからな。しかし、これは……」


「……うん。そうだね」


 リノの台詞を、アルフレッドが継いだ。


「これって、はっきり言うと誘拐だよね?」


 全員が無言になった。

 しばし、空気がシンとする。

 そして、


「コウタアアア――ッッ!?」


 青ざめ、涙目になったメルティアの声が響くのだった。

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