Act.24「旅の終わりを告げる者」
第137話「全てが繋がり、貫かれる時」
巨大な戦艦の内部を、全速力で
その目の前を、
どうやら、ここまでの潜入も逃亡も、彼女にとっては予想通りのようだった。だが、こちらの地球……惑星"
どこか他人のような気がしなくて、世代は思ったことをそのまま口にする。
「えっと、美央さん? あなたは、どうしてこの
世代の率直な言葉に、美央が肩越しに「まさか」と笑う。
まだ、そんな余裕があるらしい。
先程の大立ち回りも、どこか訓練された人間のように感じられた。
自分たちがいた地球、惑星"
それは目の前の美央も同じだが、二つの地球の同一人物には、決定的な差がある気がした。
「っと、世代! と、
美央は小さな携帯端末を取り出し、地図らしきものを確認して廊下を右に曲がった。
道中、誰とも会わない。
先程からサイレンが鳴っているが、敵兵が迫ってくる様子はなかった。
妙だと思ったし、世代は楽観を今は自分に戒める。
そして、流れてきた艦内放送が一つの手がかりになった。
『本艦はこれより警戒態勢に移行する! 上空に
次元転移とは、早い話がワープだ。
世代たちの地球にも、多くの者たちが転移してきた。
だが、聞き慣れない言葉を耳に拾って、世代は疑問を呟いた。
「監察軍? というのは」
「どうやら連中、その監察軍ってのと戦ってるみたいなの」
「ふむ……
そうこうしていると、目の前に巨大な扉が現れた。
合金製の重々しいもので、電子ロックで厳重に守られている。
だが、美央は手慣れた様子でタッチパネルを操作し始めた。
やはり、こちらの美央は特殊な技能を数多く取得しているらしい。
世代の視線に、パネルを操作しながら美央は応える。
「ちょっと、やらなきゃいけないことがあってね。まあ、肉親の尻拭いよ」
「そうですか……それで。じゃあ、
「そう。イジンを全て
ゴゥン! と、巨大な扉が左右にゆっくり開いてゆく。
白く煙った冷気が吹き出して、あっという間に世代は寒い空気に包まれた。自分以上に温度変化に敏感なのか、震えながら
「寒っ! ね、ねえ……ここ、出口じゃないよね? えっと、美央ちゃん」
「静かに。……なるほど、そういうことね」
「ちょ、ちょっと! え……なに、これ……嘘」
双葉は言葉を失っていた。
より強く、世代に抱き着いてくる。
冷たい
そこは、なにかの研究施設のようだった。
巨大な
その中身を見て、世代も思わず絶句し、ようやく言葉を絞り出す。
「これは……イジン? 以前、東京を襲った異形の一つ、ですよね」
黙って美央は
この地球、惑星"J"の人類は、無数の異形によって驚異に晒されている。その中でもイジンは謎が多く、世界各国も手を焼いているのだった。
そのイジンが、ここではまるで牧場のように培養されている。
そして、世代に身を寄せる双葉が、思い出したように口を開いた。
「ねえ……これって、前にミスリル君が言ってたやつじゃないのかなあ」
「ミスリルの? ん、そういえば」
「ほら、あたしやいちずが住んでたニッポンで……世代たちは、街のために戦ってくれたよね」
「ああ、大量の
「そう、それ! ……ミスリル君は言ってた。肉竜も、こうやって容器の中で育ててたって」
奇妙な一致に、世代は腕組み
だが……人工的に育てられたイジンの群れを前に、美央はブルブルと拳を震わせる。まるで、手の中に食い込む爪の音が聴こえてきそうだ。
彼女は、神妙な面持ちで呟いた。
「……やっぱり、連中がイジンを……絶対に、許さない。父さんの、研究を……ッ!」
そこには、暗い情念が燃えていた。
美央の
それは、基本的にロボットにしか興味がない世代でさえ、ぞっとさせられる。それほどまでに、哀しい美しさに彩られていたのだ。
だが、背後で気配がして扉が閉まる。
振り向くと、二人の少女が立っていた。
片方は、世代が知ってる娘で、双葉をこの場所へ潜入させた理由でもある。
「閉じ込められた? それより……えっと、ミカさん、ですよね?
「ミカッ! あたしだよ、双葉! 迎えに来た、助けに来たの!」
ようやく双葉は、世代から離れた。
だが、そんな二人を一瞥して、最後に美央を牽制するように少女は
間違いなく、その
彼女は隣の小さな女の子に目配せしてから、話し出す。
「……いちずは、来ていないようだな」
「全員で動くと、怪しまれるからって。でも、いちずさんもミカさんを心配してるよ?」
「そうであったか……
「事情?」
「そう……お前たち、リジャスト・グリッターズがニッポンを守って戦った、そのあと暗黒大陸に残された者の事情が」
ミカをそっと、隣の少女が手で制した。
そして、静かに落ち着いた口調で話し出す。
「ふむ、想定の範囲内ね……そこから先は、自分が話すね」
少女は軍服を着ている。先程の、新地球帝國のものだ。兵士たちは
どう見ても、12か13歳くらいの女の子である。
彼女は静かに話し始めた。
「自分の名はフォー、またの名を……怪盗・魔法少女」
「えっ!? 怪盗……魔法少女!? あの有名な!」
真っ先に反応したのは双葉だった。
そして、フォーと名乗った少女は大きく
「異世界から来た者たちが、ニッポンでゼンシア領事館の悪事を暴くこと、その裏にいたジェネシードと戦うこと……全てが想定外だったね。そして、そのあとに起こったことも全て」
「……聞かせてもらえるかな、フォーさん」
「東城世代、だったね? お前には知る義務がある……
世代たちリジャスト・グリッターズは、ジェネシードと肉竜からニッポンを守って戦った。そして、
大国が牽制し合って拮抗していた、暗黒大陸をそのままに旅立ったのである。
だが、リジャスト・グリッターズと入れ替わりに、とある勢力が暗黒大陸に次元転移してきた。それが、新地球帝國……先程のスルギトウヤとかいう子供が統べる軍隊である。
「フォーもそうね……皆、幼い子供ばかりで驚いてる
「それは確かに」
「……リレイヤーズ。呪われた子供たちね……何度も
衝撃の事実で、それが拒絶し難い現実らしい。
世代は内心驚いたが、少しずつパズルのピースが集い出すのを感じた。おぼろげながら、完成図が見えてきた、その時である。
背後で冷たい音が響いた。
それは、拳銃の
振り向けば、美央が銃口をフォーに向けている。
「怪盗だか魔法少女だかは、どうでもいい。この施設はなに? どうしてイジンを!」
「……お前は、ふむ……想定内ね。まさか、博士の一人娘に出会えるとは、驚きね」
「答えなさい!」
すかさずミカが、腰の刀を
だが、それを手で制してフォーは言葉を続ける。
「暗黒大陸は、新地球帝國の介入によって大きく勢力図を変えたね。レオス帝国が巨大な力を手にし、武力による電撃作戦で各国を無血制圧、暗黒大陸を統一して外の世界へ出たね」
「それとイジンと、関係は!」
「
信じられない話だが、ミカが補足を付け加えてくれば納得するしかない。
フォーは怪盗の立場を利用して、暗黒大陸でレジスタンス活動を続け、今こうして新地球帝國への潜入に成功したのだ。自分と同じリレイヤーズである、スルギトウヤを止めるために。
その
そう聞いたら、双葉は少し気持ちを落ち着けて、そして美央の銃口を
「……ゴメンね、ミカ。あたしといちずが、世代についてっちゃったから」
「なんの、お気にめさるな。これもまた必定……拙子はただ、非道と悪事を正す。そのために、フォー殿に賭けてみたいのだ」
「なら、これを使って」
双葉が世代を見てきたので、無言で頷いてやる。
そして、双葉は一冊の
「世代が描いたんだよ? きっと、ミカに必要になる。あげるって、いちずが」
「なんと……し、しかし拙子は」
「あなたはあたしのライバル、そして友達。それはいちずも一緒でしょ?」
「……すまぬ」
フォーは、脱出路を教えてくれた。美央はまだ納得がいかないようだが、いよいよ艦内が慌ただしくなる。どうやら上空に、大規模な次元転移が確認されたらしい。
そして、世代は後に知る……この運命的な
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