第93話「螺旋の宿業に導かれて」
空を飛ぶ
宇宙戦艦コスモフリートの
中でも、
「アレックスさん、大丈夫ですか!? ハッチを開けてください」
「よそう、アキラ……今はそっとしておく方がいいかもしれない」
「つば
「誰にとっても、
旭が生まれ育った世界は、崩壊した。
そんな中で
一度はドリル獣にされながら、虎珠皇との出会いで
ぼんやりと立って、少年少女の騒ぎを見詰める。
すると、突然頭に何か布のようなものを被せられた。
「っぷ! おいおい何だぁ!?」
「何だ、じゃないわよ。まったく、裸でいられても困るわ。
頭から引き剥がしてみると、それは服だ。
下着と上下一式を乱暴に渡してきたのは、奇妙な少女だ。目も覚めるような美人なのに、どこか
彼女はアトゥと名乗り、着替える旭をジロジロ
旭は自他共に認める
「何だぁ? そうジロジロ見ないでくれるか、姉ちゃんよう」
「いや……我輩びっくりよ? よくもまあ……何ていうか、複雑な
「見えるのか? そういうもんが」
「んーん、感じるの。ふふ……これだから人間って面白いわ。ね、そうでしょう? リリス」
少女が振り向くと、そこにはもう一人……小さな女の子が立っている。
やはり、
思わず旭が身構えてしまうと、二人になった少女は互いに顔を見合わせて小さく笑った。
「やれやれ、これまた複雑な男を拾ったものよのう?」
「ええ、まったくだわ。こんなにこんがらがった人間、我輩的にも初めてかも。サスケも
「お
旭は何やら、本能的な
目の前の少女達は、二人共人ならざる者の不思議な存在感を伝えてくる。しかし敵意はなく、むしろ
着替え終えて向き直ると、旭はひとまず二人に名乗りを上げる。
「俺の名は天原旭、そしてこいつは虎珠皇だ。拾ってもらったことには感謝している。……あんた
「我輩はアトゥ、古き神々の
「
「……
一緒にいた
あえてドリル獣の群れに飛び込み突っ切る形で、分かれて敵の大半をひきつけてくれたのだ。彼女達が無事ならばと思うし、そう簡単にやられるタマではないと信じている。
「あのドリル獣は……全て、俺の街の人間だ。人間、だった。だから……俺が
握った拳の中にはまだ、圧縮された悔しさだけが感じられる。
生まれてこの方、ずっと暮らしてきた街。毎日鉱山で汗を流し、家族や友と過ごした街だった。外の世界の話は入ってこないが、外に憧れながらも故郷を愛していたのだと気付かされる。
その全てが、
今でも、非道の限りを尽くされた家族の姿が目に焼き付いている。
そんな旭に不思議と、リリスと名乗った少女の声が優しくなった。
「それもまた、因果……ならばどうする? 天原旭よ。お主の因果は
「うわ、リリス……我輩、ドン引き。それ、言っちゃう? 教えちゃう?」
「
だが、見えない何かが旭に囁く。心の奥底から、静かに呼びかけてくるのだ。
戦え、戦えと。
運命に
それは祈りのような声となって、今も確かに聴こえていた。
「……世捨て人は性に合わねぇ。俺はまず、きっちり落とし前を付けさせてやる。俺達を見捨てたゲルバニアンと……故郷を地獄に変えた連中にな」
ふむ、と
そして、アトゥも笑顔を向ける。
不思議と少女達は、
そうこうしていると、騒がしさの中でこちらに男達が歩いてくる。オイルと火薬の臭いに満ちた中、行き交う声と音との中で近付いてくる。
中央の
「私はこの
「あんたがここの
「だが、彼には闇夜の月にも見えただろう。月明かりがなくば、人は容易に夜道で迷ってしまう」
「……歩駆は無事なんだな?」
「よく眠っているよ。本当にありがとう、彼は私達の大事な仲間だ」
旭は清次郎と握手を交わす。
どんな人物かはわからないが、触れて手と手を交えた瞬間に感じた。
嘘のない人間、そして組織を背負う責任に向き合っている人間だと。そういう男は信じられる、それは旭の経験則だ。どんな場所でも、自分の責任を全うする覚悟を持った男は強い。
清次郎の背後には、エークス軍の軍服を来た目付きの鋭い男。そして、身を揺する巨漢が
「彼等は私達の協力者だ。機動部隊の現場での指揮を執ってくれる、バルト・イワンド大尉。そして、先程合流した
旭は二人とも握手を交わす。
バルトには鋭いナイフのような感触があって、その刃を律する鋼の精神力をも伝えてくる。
そして、彰吾と握手を交わした瞬間、絶句する程の衝撃が旭を襲った。
(なん、だ……? 今、何かが……この男、こいつぁ)
それは一瞬だった。
永遠にも思えた
そして、あっという間に現在の時間軸へと意識が戻った。
その間、
だが、旭の手を握る彰吾もニヤリと笑った。
「奇妙な"
「の、ようだな。それで? その、超法規的独立部隊とやらが、どうしてエークスとゲルバニアンの
その当然の問に、清次郎は真っ直ぐ目を見て答えてくれた。
だが、最初は言われたことがよくわからず、旭は同じ質問を繰り返してしまう。
「理解し
「おいおい、本当かよ……もう一つの地球? ってことは」
「そう、この地球は惑星"
突然大きなスケールの話をされて、旭は困惑した。
だが、バルトが手短に概要を説明し、かいつまんで端的に話してくれる。
「我々は現在、はぐれた仲間を捜索しながら地球の敵と戦っている。二つの地球、双方を狙う脅威があり……さらには、二つの地球を生み出した者達の
「なるほどねえ……どうやら嘘じゃねえようだな、その目は」
「残念だが、今の我々にジョークで笑っている余裕はない。現在、探している仲間の最後の一人を救出すべく行動している。……大事な……大切な……仲間だ。今、形ばかりの軍法会議にかけられ、銃殺刑を迫られている」
「穏やかな話じゃねえな、そいつぁ」
「こちらの母艦も、
初めてバルトの瞳に感情らしきものが宿った。
だが、すぐにそれは消えてしまう。
代わって彰吾が、旭が一番知りたかったことを教えてくれた。
「次はアタシよ? アンタ達を襲ったあの惨劇……あれは全て、ある組織に仕組まれたこと。鉱山都市全体を、超物質DRLを用いた人体実験の地獄へと作り変えた"連中"がいるのよ」
「……へっ、それだぜ。俺はそれが聞きたかった」
「知ってどうするのかしら? "復讐"するつもり?」
「そうでなきゃ、死んでやった奴等が浮かばれねえ。ありゃ、人の死に方じゃねえからな……きっちり落とし前をつけてやる。もう、俺にはそれしかできねえからよ」
それだけ言って、旭は一同に背を向ける。
再び虎珠皇で、その組織とやらを追うのだ。復讐の旅、それは破滅へと転がりおちるだけの
因果に
だが、そんな旭を引き止めたのは彰吾だった。
「復讐もいいけど、もう少し"
「……放っといてくれ。俺は俺で好きにやる」
「放っとけ、ねえ……ふざけんじゃないわよっ! 虎珠皇を任された、虎珠皇に選ばれたなら半端は許さねえって言ってんだ! 一人で復讐ごっこがしたいなら、さっさと一人だけで出ていきなっ!」
恐らく旭の目にも、
旭は黙って、その場に留まった。引き止めた彰吾の中に、自分と同じか、それ以上の悲しみが感じられた気がした。こうしてまた一人、リジャスト・グリッターズに戦いを宿命付けられた男が加わるのだった。
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