第47話「明日への天翔」
一度は収束しかけた混乱が、再度混迷の度合いを増して広がった。
ブライト・シティは今、先程にも増して悲惨な光景を広げている。往来に満ちた巨大なバケモノたちは、郊外に片膝を突くサンダー・チャイルドからもよく見えた。
格納庫で
サンダー・チャイルドは、それ自体が完結した人型の
アストレアのコクピットへ滑り込む美李奈。
即座に相棒たる執事の声が飛び込んでくる。
『美李奈様、アストレアのメンテナンスは終了しております。ワックスがけも隅々まで』
「ありがとう、セバスチャン。アストレアは市街地へ先行、市民たちを
『
また、戦いが始まる。
サンダー・チャイルドがゆっくりと立ち上がる振動が、アストレアの装甲越しに伝わってきた。混乱の原因は全て、突如襲ってきた謎の怪物……皮膚を持たぬ
手早く機体をチェックし、いつものように中央のディスプレイを確認する。
アストレアの文字が浮かぶディスプレイは、今日もいつもと変わらぬ光を
そして、格納庫の扉がゆっくりと開く。
すぐ近くには、高度をあげつつ各機を緊急発進させるコスモフリートが浮いていた。
そして、頭上から声が降ってくる。
『おやっさん、サンダー・チャイルドは街には入れないって? うん、うんうん、わかった! 外に出てくる怪物は全部、ここで食い止めちゃうんだね!』
全高300mの巨体が、ゆっくりと立ち上がった。
そして、今まさにアストレアが飛び降りようとするハッチ前に、手が伸びてきた。アストレアも40mと大型の機体だが、サンダー・チャイルドにかかればポケットの中の
シルバーにはなにか意図があるようで、迷わず美李奈はアストレアを進める。大きな大きな
頭部に並ぶ高さに
『美李奈ー、急ぎだよね? サンダー・チャイルドには、あっちみたいなフォトン・カタパルト? っての? ないからさ』
「ええ。もしやシルバーさん、なにか妙案があるのでは?」
『うん。手動カタパルト……いくよーっ!』
直ぐに察した、以心伝心で理解した。
美李奈が身構えると同時に、耳元の無線は『あの、美李奈様? シルバー様は――』と、執事の声が遠ざかる。
次の瞬間、アストレアをそっと握ったサンダー・チャイルドは……大きく腕を振りかぶった。そのままメジャーリーガーのように、アストレアの巨体が
強いGと共に、セバスチャンの絶叫が響く。
歯を食いしばる美李奈の視界に、あっという間にブライト・シティの町並みが迫った。
美しい市街地は今、溢れ出た奇っ怪なモンスターが
すぐに襲われてる市民を見つけて、美李奈の目元が
「おやめなさい……ヴィブロナックル! 続けて、ワンツー!」
アストレアは空中を切り裂く弾丸となりながら、右、左と続けて上腕部を打ち出した。大通りで暴れる肉竜たちへと、火を吹く鉄拳が浴びせられる。
追われていた人々が足を止めて見上げる、その視線の中で美李奈は足元を確認した。オペレーターとして補佐をしてくれるセバスチャンが、下を確認して安全を告げてきた。その頃には
「制動、受け止めなさい! セバスチャン、着陸します。状況を調べて
『かしこまりました、美李奈様……どうやら怪異は、街の中心部方面から溢れ出ているようです。既にバルト大尉たちのトール部隊が退路を確保、現在避難誘導中。ジン工房へと向かった
「それは
二つのヴィブロナックルが、減速するアストレアをそっと手で受け止め、押し返す。その推力にも助けられて、アストレアは巨体の質量が嘘のように優雅に舞い降りた。
この短期間で、美李奈は驚くべき操縦技術を習得し始めていた。
不思議と、操作に関してなんの違和感も感じないのだ。
こうしてアストレアを、気持ちが
今、戦いたい……皆のために力を尽くしたいという想いが燃えている。
油断なく周囲を見渡す美李奈に、セバスチャンのオペレーションは的確だった。
『美李奈様、この通りの奥に見慣れぬ機体が……外観から、ゼンシア神聖連邦で使われている
「向かいます!」
そう言った時にはもう、アストレアは石畳の上を
巨体が風を切って、向かう先で振り向く肉竜たちを蹴散らす。
たちまち目の前に、小型の人型機動兵器が振り向いた。手には
確かにセバスチャンの言う通り、メイド服の美少女だった。
「そこの方! 加勢します!」
『ン、助かる! 気をつけろ……こいつら、神話生物の技術で大量培養された怪物だ。なんでも喰らう
返信の声は、少年だ。
それも、聞き覚えのある声である。
確か、スメルの
すかさず美李奈は、アストレアを全面へと押し出す。
体格差があるためダメージは気にしなくていい反面、アストレアの半分ほどの大きさの肉竜はすばしっこい。先程の奇襲とは違って、群れなす牙と爪が無軌道な動きを見せる。
目まぐるしく標的が入れ替わる中で、美李奈はセバスチャンが割り振るターゲットマーカーを頼りに戦う。巨人に群がる肉竜たちが、一匹、また一匹と大地に叩きつけられた。
『ジェネスを参考に、
「魔法もまた、魔力や精霊を
無手の格闘術で、アストレアが群がる肉竜を蹴散らしてゆく。
その足元では、あまり小回りが利く方ではないアストレアを、ミスリルの操御人形がカバーしてくれていた。
だが、次第に肉竜の姿が増え始める。
そして、美李奈は押され始めたと感じて尚、武装を使わぬ格闘戦を選んでいた。
そんな彼女の
『なあ、あんた! 確か、美李奈さんとか言ったよな。そのデカい操御人形、強いんじゃないのか!? 僕のベネルじゃ、パワー負けしてしまう!』
「強過ぎる力は、この街をも傷付けます!」
『ここいらにもう人の気配はない! 避難は十分に完了してるんでしょう!』
「住む場所、暮らす土地、生きる街……そういうものも極力壊したくはないのです。
美李奈は常に、自分も名を連ねるリジャスト・グリッターズにささやかな誇りを抱いている。正義の味方と言えば
リジャスト・グリッターズ――あるべき姿を定め直す、人と人との力が生む
それは、民の命を守り、暮らしを守り、生き方や未来も守れる筈だ。
そう信じて戦うからこそ、美李奈は周囲にも目を配っていた。
言わずとも察してくれているようで、セバスチャンのサポートも完璧だった。
だが、そんな美李奈の奮闘を
『美李奈様! 巨大な個体がこちらに! 大きい……アストレアよりも、もしや』
「大きさなど問題にはしません! アストレア、今こそ力を見せるのです!」
重い衝撃音と共に、アストレアの背丈を上回る巨大な肉竜が現れた。鋭い爪が光る両手を、アストレアの両手が受け止める。がっぷり四つに組んだものの、生き物とは思えぬパワーがアストレアを圧倒してくる。
関節部が
アストレアが広げた世界が、
だから今、そのアストレアで美李奈が世界を守って戦うのだ。
そう思い出した瞬間、自分とは異なる道を……されど、真なる道を駆け抜ける少年の声が響く。頼もしい叫びが突き抜けて、視界に広がっていた肉竜の姿がスッ飛んだ。
『美李奈から、離れろっ! スーパーロボットはなあ……気持ちで動く魂の相棒なんだ! アニメロボ大全2097にっ、書いて、あん、だあああああっ!』
白き神像、再臨。
ロービジ塗装の装甲を着せられ、
突如現れたゴーアルターは、飛び蹴りで巨大肉竜へと突き刺さった。
自由になったアストレアを数歩下がらせながら、驚きと喜びに美李奈は思わず叫んだ。
「
『おうっ! 俺はもう、迷わない……俺だけのヒーローを探す! 探してなければ、
よろけた巨大肉竜へと、ゴーアルター・アムドウェアは背中の巨砲を身構える。二つ折りになった砲身が展開して、
真道歩駆は、それを逆さまに砲口を握るや……
『うおおっ! 火器なら火器の、使い方っ!
両手で握った滑空砲を手に
伸びてしまった巨大肉竜の頭部へと、歩駆はようやく正しい持ち方で構えてた滑空砲を向ける。その砲口を突き刺すように押し付ければ、
見れば、市街地の中央部から不思議な影がゆらりと空へ舞い上がっていた。
そして、周囲にリジャスト・グリッターズの仲間たちが集まり出す。
徐々に肉竜を駆逐し始めたリジャスト・グリッターズの各機が、そろって狭める輪の中で……中心地に浮かぶ異形の巨大兵器から通信が響く。嫌味で
『なかなかやるじゃないの、ええと……確か、リジャスト・グリッターズ。我らが親愛なるキィ様、そしてジェネシードの民の敵。愚劣なる
女性的な響きだが、男の声だ。
それは、街の中心地に浮かぶ巨大人型兵器から発せられていた。背に六対の
戦う前から美李奈には、突如現れた謎の機動兵器を恐ろしいと感じることができた。
『私はシフト。偉大なるキィ様を守る親衛隊、キィボーダーズの
その敵の名は、シフト。
そして、アウラミスラ。
アウラミスラは、目算で200m程、ドバイで襲ってきたダルティリアの半分ほどだ。だが、不思議と何倍も恐ろしい。異様に細い手足と胴体、そして
だが、アストレアの周囲に集まりだした仲間たちの声は頼もしい。
『これがバルト隊長や
『
ケイオスハウルの中から、強い意思を束ねた決意が叫ばれる。
そして、勇者たちの歓呼はやまない。
『いやあ、参った……アル、アカグマはいきなり実戦だけど大丈夫か? ……俺は今、アカグマが大丈夫じゃなくても戦いたい。今という時に奮い立てなきゃ、なにも守れない』
『そうだネ、ほぼ完璧に、確実っぽく、多分絶対イケる筈だヨー、マスター!』
そして、
その声は、少女の覚悟を宿してアストレアの足元から響き渡った。
『貴方が我がゼンシアをかどわかし、海軍の一部を暴走させたのですか? もしそうなら、許す道理はありません。スメルの巫女は民に寄り添い、その土地と共に未来へ希望を
乙女の純潔を
故に今、シファナはゼンシアの……暗黒大陸の全てを
リジャスト・グリッターズの総戦力が結集した前で、シフトと名乗る男は
『フフ……ウフフ、アハハ、アーッハッハ! やだわ、ちょっとついてけないわね。貴方たち、あれでしょう? 祈りや願い、絆や誇りとか、そういうの信じてるんでしょう? やあねえ、暑苦しい。キィ様以上に
美李奈は、その言葉に奮起した。
なんたる傲慢、
その時、アストレアのコクピットで、ディスプレイに新たな光が
驚く美李奈は、解放されし正義の力と共に、力強い雄叫びを耳にした。
今、シフトのアウラミスラへと、二つの
『人々の想い、望み……誰もが信じる希望! それを
『闇に包まれ
美李奈は見た。
真っ直ぐ、迷いなく
翼と翼とが今、この暗黒大陸を影から揺さぶっていた悪意へと
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